最新記事

韓国

極悪ネット性犯罪「n番部屋」は韓国の女性蔑視文化の産物

2020年3月30日(月)19時45分
テジョン・カン

警察から検察に身柄を送致される「博士」ことチョ・ジュビン容疑者 KIM HONG-JI-POOL-REUTERS

<未成年者を含む70人以上の女性が被害に遭った違法ポルノ事件。韓国社会が変わらない限り再び起きる可能性がある、と専門家は指摘>

韓国ではこれまでに、通信アプリのテレグラム上で「n番部屋」と呼ばれる違法ポルノ会員サービスを運営していた容疑者約20人が逮捕された。彼らは未成年者を含む70人以上の女性を脅迫。わいせつな動画を作成し、フォロワー(有料会員)に販売していたという。

特に主犯格のチョ・ジュビン、通称「博士」は26万人以上のフォロワーに多数の違法ポルノ動画を配布していたとみられる。彼らはさまざまな手段で入手した個人情報を使い、被害者を脅迫していた。被害者の体に「奴隷」の文字を彫らせたり、チョの「所有物」であることを示すポーズを強要したりすることもあったという。

被害者の一部に未成年者が含まれているため、チョらの容疑者は重い刑を科される公算が大きい。フォロワーたちも罪に問われる可能性がある。

チョらの逮捕をきっかけに、この種の犯罪の根絶と再発防止のために強力な対策が必要だと、多くの識者が主張している。韓国サイバー性暴力対応センターのソ・スンヒ代表もその1人だ。テレグラムのようなモバイルメッセージサービスがらみの犯罪を処罰する法律が韓国にはまだないと、彼女は指摘する。

ソはさらに、全てのポルノ画像・動画の所持を罰する新法が必要だと説く一方で、韓国社会に「レイプ文化」が存在し続ける限り、このような犯罪は再び起きる可能性があると指摘した。

「レイプ文化」とは、メディアやポップカルチャーが女性に対する性的暴力に寛容で、強姦事件が多発する社会環境を指す。「女性の性を使って金を稼いでもいいという考えと、被害者に『誰とでも寝る女』のレッテルを貼る行為を許す社会の構造が、このような問題を引き起こしている」と、彼女は付け加えた。

この事件でも、容疑者たちの間に違法の動画や写真を見たがる「レイプ文化」が存在したことはほぼ確実であり、だからこそ彼らは欲望を金に換える仕組みを構築したのだと、ソは語る。「彼らは被害者に『ふしだらな女』のレッテルを貼ることで、脅迫に対する罪悪感を薄めていた」

事件に対する国民の怒りが爆発すると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領はチョの全フォロワーを含む関係者への調査拡大を指示すると明言。この「残忍な」事件の徹底捜査と被害者への必要な支援を約束した。韓国大統領府の匿名の情報筋は、現行法の問題点を洗い出し、事件の再発防止に向けた法改正に動く可能性を示唆した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

ECB、年内に複数回利下げの公算=ベルギー中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中