最新記事

事件

フィリピン政界、謎の連続殺人 非公開麻薬関連リストで広がる疑心暗鬼

2020年2月25日(火)19時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

麻薬対策で強硬姿勢を崩さないドゥテルテ大統領  Czar Dancel - REUETRS

<ドゥテルテがもつという麻薬容疑者リストに名を連ねた側近や町長らが次々と殺されている>

麻薬犯罪容疑者に対する厳しい姿勢を貫くドゥテルテ大統領の指示のもと、捜査現場での射殺を含む超法規的措置という強硬姿勢での取り締まりが続くフィリピンで、大統領の手元にある麻薬犯罪関連容疑者リストに名前が記載されているという市長や町長、法務関係者などが何者かに射殺される事件が相次いでいる。

ドゥテルテ大統領の側近とされた前国家警察長官や麻薬捜査で大統領から表彰を受けた警察幹部にも麻薬疑惑が広がっているが、ドゥテルテ大統領は側近、警察幹部といえども容赦ない姿勢で対処しており、その一貫した姿勢が国民の高い支持の背景にあるといえる。

一方で麻薬に「汚染された警察官」が数多くいると指摘される警察組織では、汚職警察官と目されている警察官約350人に対して国家警察長官が「警察の名誉を守るため」として早期退職を勧告する事態にもなっている。

問題の麻薬犯罪関連容疑者リストだが、職業と人数のみが公表され、定期的にアップデートされており、警察幹部、大統領などはその個人名など中身を把握しているといわれる。現在は、市長35人、副市長7人、地方政府委員会関係者1人、下院議員3人のほかに多数の警察、軍、裁判所などの関係者の名前が記載されているという。

法務当局は最も麻薬に汚染された官庁

2月19日、法務省矯正局のフレデリック・アンソニー・サントス氏が首都圏マニラの学校に通う娘を迎えるために学校前に自家用ピックアップトラックを駐車して待っていたところ、正体不明の男性2人が近づき突然発砲して徒歩で逃走。サントス氏は頭部に銃弾を受けて死亡した。

サントス氏は2019年に元国家警察長官のパンフィロ・ラクソン上院議員から服役中の中国人麻薬密売人との親しい関係を指摘され、それを否認していたものの、麻薬組織との深い関係が指摘されていた疑惑の人物という。

また同年9月にはニカイル・フェルドン刑務局長が上院の査問委員会に召喚された。これは、1990年代に婦女暴行や殺人罪で長期の禁固刑判決を受け服役しているフィリピンで最も悪名高い犯罪者アントニオ・サンチェス服役囚(70)の釈放命令書にフェルドン刑務局長が署名したことに対して、ドゥテルテ大統領が激怒。彼の解任と同様措置で彼が釈放した麻薬犯罪関連服役囚を含む約2000人の元服役囚の再逮捕を命じた。

この件が示すようにように法務省刑事局、矯正局は官庁の中でも麻薬関連でもっとも「汚染された部署」といわれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

ECB、年内に複数回利下げの公算=ベルギー中銀総裁

ワールド

NATO、ウクライナへの防空システム追加提供で合意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中