最新記事

米イラン

イランの無人機撃墜がアメリカにとって重大な理由

Iran's Missiles: Why Shooting Down of U.S. is Important and What It May Tell Us

2019年6月21日(金)16時00分
トム・オコナー

米ノースロップ・グラマン社製の、最も大きく最も高価な無人機( RQ-4Aグローバルホークの派生型)  U.S. Navy/ REUTERS

<撃墜の詳細は不明だが、もし、米軍の最新鋭の無人機がイランの国産地対空ミサイルに撃ち落とされたというのが事実なら、アメリカにとっては衝撃だ>

イランは6月20日、米軍の最新鋭の無人機をホルムズ海峡上空で撃墜した。撃墜に用いたミサイルは、国産のものだとイランは主張している。今回の事態は、アメリカとイランのあいだに起こりかねない衝突の複雑さを浮き彫りにしている。

撃墜されたのは、アメリカの無人偵察機「RQ─4Aグローバルホーク」の一種だ。詳細の多くについてはまだ不確実だが、アメリカ中央海軍司令部は、ドローンがイランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊(IRGC)」によってホルムズ海峡上空で撃墜されたことを認めている。

アメリカとイランは、互いに相手の軍隊をテロ組織呼ばわりし、あれこれ言い争ってきた。だが、今回の撃墜では、2つの要素が際立っている。

ひとつは、ノースロップ・グラマン社製のアメリカの無人偵察機RQ-4が撃ち落されたのは、派生型も含めて、知られている限りにおいて今回が初めてという点だ。核不拡散を専門とするアナリストのファビアン・ヒンツは本誌に対し、RQ-4は「小型のプレデターとはわけが違う」と語った。プレデターは、2000年代の対テロ戦争で世界的に広く利用された無人機だが、RQ-4は「米軍史上、最も大型で最も高価な無人機」だとヒンツは述べた。

ふたつめに重要なのは、イランがRQ-4を撃墜するために使ったのは、地対空ミサイルシステム「ラアド(Raad)」の派生型だと公言した点だ。「まさかと思うが、万が一これが事実だとしたら、きわめて重大だ」と、ヒンツは言う。イランは国産のミサイルを使ったことになるからだ。

革命防衛隊はその後、「ホルダード月3日目」という名の地対空ミサイルシステムがRQ-4Aとされる物体に向けてミサイルを発射し、迎撃した様子、という映像を公開した。

イランは2011年12月にも、米軍の無人偵察機「RQ-170センチネル」を着陸させたと主張したことがあった。それもミサイルで撃墜したのではなく、革命防衛隊の電子戦部隊が同機を誘導して着陸させたと主張して(のちに無傷のRQ-170の画像を公開)、当時も国際的な騒ぎとなった。

無人機撃墜を受けたドナルド・トランプ米大統領は20日早朝、「イランはとても大きな過ちを犯した!」とツイートし、ホワイトハウスは直ちに会議を招集した。

イランはこれまで、軍事パレードで自国の兵器や短距離ミサイルなどを大々的に披露してきた。イランの軍備縮小を呼びかけるアメリカに対して、挑戦的な態度もしばしば見せた。アメリカがまさにイランから取り上げようとしているそうした兵器を、イランは、アメリカやイスラエルの局地的侵略に立ち向かうために必須の防衛手段だと見ている。

トランプと、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師はともに、両国が激しく軍事衝突する可能性は低いとしてきたものの、相手国によるいかなる敵対行為に対しても対抗すると断言している。

(翻訳:ガリレオ)

magSR190625issue-cover200.jpg
※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円安は是正必要な水準、介入でトレンド変わるかは疑問

ビジネス

米アップル、ベトナム部品業者への支出拡大に意欲=国

ビジネス

ECBの6月利下げ、インフレ面で後退ないことが前提

ワールド

米国連大使が板門店訪問、北朝鮮擁護やめるよう中ロに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中