最新記事

日米関係

対米通商交渉、切り札として日本が輸入拡大するLNGは「国内需要先細り」

2018年8月29日(水)16時25分

国内需要は先細り 原発政策との矛盾

ところが、大きな障害として、LNG需要の減少傾向が意識され始めた。

1つは、国内における人口減少や省エネに伴うエネルギー需要減少などが要因として浮上している。LNGの輸入数量はここ数年減少傾向にあり、今年上期は前年比2.7%減となっている。

さらに日本政府が進めている原子力発電所の再稼動の結果、LNG需要がさらに減少する可能性が高まっている。

2011年の東日本大震災の発生後、稼動している原発はゼロになったが、18年8月末時点で、再稼動は7基になる見込みだ。政府の計画では、30年時点で30基程度の再稼動が見込まれている。

JOGMECの田村康昌・主任研究員の試算では、原発1基の稼働によりLNGは80─100万トンが不要となる。

30基の稼働を前提にするとLNG需要は6200万トンまで減少、昨年の輸入量の4分の1が不要となる計算だ。

JERAの垣見祐二社長は、16年のロイターとのインタビューで「政府の長期LNG需要見通しをベースに考えれば、2030年までにLNGの輸入長期契約を最大で42%減らす可能性がある」と述べていた。

このまま米国産LNGの輸入拡大を継続した場合、日本国内に過剰なLNG在庫が積み上がりかねない。

そこで政府が注目しているのが、経済産業省が16年に策定した「LNG市場戦略」。米国産LNGの輸出先としてのアジア市場の拡大や、事業者の転売価格の安定確保を支援しようとしている。

17年からは米国との協力体制も構築。政府関係者の1人は、トランプ大統領によるLNG輸出拡大の意向が、こうした動きに影響していると認めている。

今年からは官民で100億ドル規模のファインスの受け入れ候補の企業調査も始まり、アジア各国のLNG関連の官民技術者などを対象にした研修会も実施している。

ただ、アジア市場拡大に伴い日本が米LNGを転売用に購入しても、貿易統計上の輸入には計上されない。「日本の対米貿易黒字の削減につながらないことは承知している」(政府関係者)と打ち明ける。対米輸入拡大への貢献がどの程度、日米通商協議で説得材料となるのか。政府自身が確信を持てず、手探りで交渉のテーブルに臨むことになりそうだ。

(中川泉 月森修 編集:田巻一彦)

[東京 29日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税交渉で来週早々に訪米、きょうは協議してない=赤

ワールド

アングル:アルゼンチン最高裁の地下にナチス資料、よ

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 4
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 5
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 6
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 7
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 8
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 9
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 10
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中