最新記事

ソーシャルメディア

フェイスブックはなぜ全米を激怒させたのか

2018年4月12日(木)16時47分
アレックス・ペントランド(MIT教授)、デービッド・シュリアー(ディスティルド・アナリティクスCEO)

3月10日、上院公聴会に出席したザッカーバーグ(手前中央の後ろ姿)。今回の騒ぎをどう釈明するか全世界が注目したが Leah Millis -REUTERS

<マーク・ザッカーバーグの支配下、責任あるプラットフォーム企業として外部の意見も要望も聞こうとせず、20億人ユーザーすべての個人情報を危険にさらしたフェイスブックは、内部から腐りきっている>

個人情報流出問題で窮地に追い込まれたフェイスブック。株価はこの3週間余りで10%超下落し、株式時価総額は何百億ドルも目減りした

マーク・ザッカーバーグCEOは先日、ほとんどすべてのユーザー、つまり世界の20億余りの人々に、プロフィールの個人データが不正に取得されたと「想定」するよう警告した。

3月末には、「どんな犠牲を払っても成長」を最優先するという、同社幹部のメモが流出したばかり。報道によれば、社員を驚かせたのはこのメモに現れた上層部の腐敗した価値観ではなく、社内の誰かが会社を「裏切って」自社の体質を外部にリークしたことのほうだったという。

フェイスブックの今回のゴタゴタは、元をたどれば最上層部に、そして同社全体に根を張っている「組織的な傲慢さ」に行き着く。

「人と人をつなぐテクノロジー企業=良い企業」と勝手に思い込んだ同社幹部は、社会的なリスク、さらには企業統治のリスクに対する備えを怠ってきた。結果、自社への忠誠心を企業の社会的責任(CSR)より上に置く企業文化が形成された。情報セキュリティーの最高責任者が同社を追われたのも、情報開示を主張して、同社幹部の方針に疑義をはさんだためと言われている。

社会に背を向けた経営

こうした事態になる前にせめて、SNSの運営につきものの社会的リスクを評価すべきだった。フォーチュン上位500社の多くは、環境、社会、企業統治に関わるリスクを検証し、報告する組織的なCSRプログラムを導入している。やはりSNSを運営するツイッターは年2回、凍結した悪質アカウントの数も含む「透明性報告書」を公開している。ブルームバーグやシマンテックなどのテクノロジー企業やデータ企業も、「米サステナビリティ会計基準審議会」(SASB)の基準に基づき、企業統治その他について報告している。

フェイスブックはこうした活動に積極的に取り組んでこなかった。事業や財政上のリスクに加え、環境、社会、企業統治のリスクも考慮しなければならないというのは、今や企業経営の常識だ。優良企業は社会的責任を果たすだけにとどまらず、社会をより良くする活動に取り組むことで長期的なリターンを生む「攻めの社会貢献」を行っている。

ザッカーバーグが、フェイスブックは人と人とをつなぐ善良な企業で、とくに努力をしなくてとも悪とは無縁、と思うのは大きな間違いだ。自社の事業の影響をモニターし、自社を取り巻く環境に目を向け、悪質な利用を防ぎ、ユーザーの便益、ひいては社会全体の便益を追求する不断の努力が求められる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イスラエル、ラファ侵攻準備 民間人避難へテント調達

ビジネス

アングル:日銀会合直後の為替介入、1年半前の再現巡

ワールド

インドネシア中銀、予想外の0.25%利上げ 通貨下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中