暴力事件の影で見過ごされる旅客機内のセクハラ 航空会社は対応を
恥の文化
ロイターが取材した主要航空会社20社以上のうち、フライト中のセクハラ事件の件数を公表したのは、日本航空<9201.T>だけだった。年間10─20件で、警察に通報することもあるという。
マレーシアの格安航空会社(LCC)エアアジア のスハイラ・ハッサン氏は、乗客間のハラスメントの報告はこれまでないものの、乗務員がハラスメント被害に遭うことは時々あると話す。
航空会社側に通報されない案件もいくつかあると考えらえる、とハッサン氏は語る。「文化のせいだと思う。表ざたになるのを恥ずかしがる人は多い」
この指摘は、職場でのセクハラの75%が報告されていないという米国での研究とも合致している。
アジアでは、セクハラを公に議論する文化が比較的弱い。
「人々が一般的にあまり声を上げない文化だと思う。被害者は、沈黙の中で苦しんでいる」と、シンガポール航空の元乗務員で、今ではアジアや中東で乗務員訓練のコンサルティングを行うジェイソン・タン氏は言う。
ジェット航空の元乗務員のエルザマリー・ダシルバ氏は、現在はセクハラや性的被害の事案をクラウド収集するサイトを運営している。同氏は、インドでは、被害に遭ったことを恥と感じる人が多く、被害者側が訴えた内容を証明しなければならないため、通報件数が少ないという。
「インドの航空業界は、もっと事態を重く見るべきだ」と、同氏は話す。
乗務員訓練
大半の航空会社は、暴力やわいせつ行為から、言葉での脅迫や航空機器へのいたずらまで、さまざまな種類の「手におえない乗客案件」に対応する訓練を実施している。
「乗務員は、こうした事案に対応する訓練を受けているが、一定限度までだ」と、航空関係の保安訓練会社グリーンライトのフィリップ・バウム氏は言う。
「世界で行われているほとんどの乗務員保安訓練は、1日で終わる。2日かかることもある。想定される事態はあまりに多様で、あらゆる種類の手におえない乗客を想定してやったら、1週間かかってもおかしくない」
IATAによると、昨年報告があった「手におえない乗客」案件約1万件の約3分の1が、飲酒がらみだった。不適切な性的行為は、わずか2%だ。
「そのような案件は少ないが、われわれの乗務員は危険な事態に対処できるよう、よく訓練されている」と、欧州LCCイージージェットの広報担当者は話す。