最新記事

中東

サウジ皇太子の改革を称賛する国民の本音

2017年12月6日(水)16時30分
スティーブン・クック(米外交評議会上級研究員)

邪魔者の放置を許すな

しかし私が旅先で会ったサウジアラビア人たちは、海外の有識者たちよりもずっと自国の未来を楽観していた。ムハンマドが自分への権力集中を急いでいること(これ見よがしな汚職摘発はその一環だ)についても、庶民の圧倒的多数は肯定的な反応を示した。

運転手のアブナジブは私に言ったものだ。元リヤド州知事のトゥルキ・ビン・アブドゥラ王子や有力財界人のバクル・ビンラディンのような面々を金ぴかの「リッツ留置場」に閉じ込めたムハンマドは「必要なことをやった」だけ。サウジアラビアを変えようとするムハンマドの大事業を成功させるには、その邪魔になる者たちを放置するわけにはいかないのだと。

欧米諸国のアナリストは、ムハンマドが不要な緊張と混乱を引き起こしていると懸念を募らせているのだが、と私が伝えても、アブナジブは「心配していない」と一蹴した。

26歳の大学院生で、夜間はジッダの高級ホテルで副料理長をしているサウドも、ムハンマドの一連の行動を高く評価していた。「私たちは汚職と戦っていかなければならない。これは正しい行いだ」

32歳のムハンマドは超保守的な社会の自由化も進めているが、この点についてもサウドは、自分は「イスラム教徒もそうでない人も」、誰もが好きなように生きられる国に暮らしたいと語った。私にとっては初耳に等しい意見だったが、確かにアメリカの外交筋の間では、そんな変化を伝える話が数年前からささやかれていた。

この国でも、80年~00年代初頭生まれの「ミレニアル世代」は一刻も早い変革を望んでいる。別れ際にサウドは言った。欧米のアナリストたちは間違っている、社会が不安定になるとしても、その原因は改革の失敗ではなく、改革に手を付けずにきた事実にあると。

私の会った人は例外なく、この国の若者たちはもう、やたらと制約の多い社会制度に愛想を尽かしていると指摘した。よその国の人々の暮らしを見て、自分たちも同じように暮らしたいと考えているのだと。だからこそ人々は、ムハンマドが宗教警察(勧善懲悪委員会)の逮捕権限を剝奪したことを歓迎し、称賛したのだ。

王族らの腐敗への怒り

ムハンマドの下で女性による車の運転が認められることになった。そのこと自体は特に称賛に値することでもない。それでも私が会うことができた現地の女性たちは運転の権利を認めてくれた決断に深く感謝していた。

女性が運転できるようになれば、外出するときに男の運転手を雇う必要はなくなる。そして大きな社会的・経済的なチャンスが開け、いずれは経済的に自立して生きることも可能になるだろう。

サウジアラビアの安定を長年にわたり維持してきた繊細なバランスを崩すのではないかと欧米の外交筋は心配している。だがサウドはそんなことを気にせず、むしろバランスの崩壊を歓迎している。

ミレニアル世代だけではない。エリート層でありながら、国の奨学金で大学を出て専門職に就いているある中年男性も、11月の一連の逮捕劇を「これまでに起きたことでは最高の出来事」と断言した。

長らく駐米大使を務めたバンダル・ビン・スルタン王子はかつて、国家建設の過程で王族が何千億ドルもの財を築いたとしても、それに見合うだけの功績があったのだと語っていた。しかし一般国民はそんな言い分に同意しない。国の資源が王族や政府高官のポケットに消えていくという現実に、みんなうんざりしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月速報値は51.4に急上昇 

ワールド

独、スパイ容疑で極右政党欧州議員スタッフ逮捕 中国

ビジネス

仏サービスPMI、4月速報1年ぶりに50上回る 製

ビジネス

ECBは6月利下げ、それ以降は極めて慎重に臨むべき
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中