最新記事

ISIS

「イスラム国」の首都ラッカ解放でISISが行く先

2017年10月18日(水)19時16分
ジャック・ムーア

しかも、過激派にとって時は熟している。3年以上戦闘や空爆が続いたイラクでは、中西部ラマディや中部ファルージャ、北部モスルやティクリート、タルアファルなどの主要都市が壊滅した。かつてならイスラム過激派のイデオロギーを突っぱね、社会の正常な機能を維持する基礎だったはずの都市が、今はない。イラクのような国が過激化する条件は、ISISが台頭した2014年並みに揃っている。

■グローバル・ネットワーク

ISISがイラクとシリアに築いたカリフ制国家が縮小の一途をたどっても、国外のISIS戦闘員は生き延び、ISISは影響力を持ち続ける。

西アフリカから東南アジアにいたるまで、世界にはISISに忠誠を誓う武装組織の複雑なネットワークがある。

ISISの下部組織は、アフガニスタンでは反政府武装勢力タリバンを相手に、イエメンではイスラム教スンニ派の過激派組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」を相手に、勢力争いを繰り広げている。他にもフィリピンやサウジアラビア、エジプト、リビア、チュニジア、ナイジェリア、ロシアのコーカサス地方などに拠点を分散させて勢力を保っている。

ISISの弱体化に伴い、ISIS中枢からの支援や資金提供は減るだろう。それでも彼らはISISの名の下に、今後もテロ攻撃を仕掛け続ける。エジプトでロシアの旅客機を撃墜したり、イエメンのシーア派のモスク(礼拝所)で自爆テロを行ったりしたように、イラクやシリアの国外で殺戮を繰り返すことは可能だ。

■地政学的な火種

忘れてならないのが、ISISがいなくなることによる地政学的な影響だ。

イラク北部とシリア北部でISISを蹴散らしたクルド人主体の武装勢力は勢いづいて、ISISが逃げた後の土地をいくつか実効支配している。いずれイラク政府やシリア政府が取り戻しにくれば、争いは必至だ。

地政学的変化はすでにイラク北部で表面化している。イラク軍は10月16日、クルド自治政府が実効支配していた北部キルクークに進軍し、市内の広い範囲を掌握した。自治区も管轄権を持っていたイラク有数の油田地帯まで、イラク政府が支配下に置いた。クルド人がこの地からISISを撃退したとたん、土地はイラクのものだ、と言うわけだ。

ISISの放棄地は誰のものか

クルド人勢力はISIS掃討作戦を通じて、自分たちが優れた軍隊であることを証明した。だがその後、クルド人の独立機運が高まると、米主導の有志連合は独立に向けた動きを牽制し、同じく独立を目指すクルド人武装組織を抱えるトルコとイランも、自国への飛び火を警戒して反発した。

同様にシリア内戦も両手で数えきれないほどの多くの当事者を巻き込んでおり、ISISが放棄した土地をめぐる帰属争いは、ラッカ陥落後も長引きそうだ。もし交渉で決着がつかなければ、武力で決着をつけることになる。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中