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米政権に残された選択肢は北朝鮮の核保有容認か

2017年9月8日(金)16時50分

9月7日、トランプ米大統領は、対話や経済制裁、軍事的圧力のいずれを通じても北朝鮮に核開発を放棄させるのは不可能だと悟り、同国を封じ込めて核兵器の使用を思いとどまらせるほかないとの結論に至るのかもしれない。写真はKCNAが1日配信した北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長。KCNA提供(2017年 ロイター)

トランプ米大統領は、対話や経済制裁、軍事的圧力のいずれを通じても北朝鮮に核開発を放棄させるのは不可能だと悟り、同国を封じ込めて核兵器の使用を思いとどまらせるほかないとの結論に至るのかもしれない。

2日に北朝鮮が6回目の核実験を強行したことで、米国およびその連合国との緊張は一気に高まった。

米高官らは軍事行動の計画を明らかにしていないが、既存の先制攻撃計画では、どれをとっても北朝鮮からの猛烈な反撃を免れる保証がないと言う。

マティス国防長官は先週記者団に対し「外交的な解決策が尽きたわけでは決してない」と述べ、軍事的な選択肢は非現実的で短絡的だとの考えをにじませた。

米国とアジアの当局者らは、対話と経済制裁の強化が必要だとの考だが、それによって北朝鮮が自らの存続に不可欠と考えている核・ミサイル開発を抑えたり、いわんや放棄するとは考えられないとも認めている。

つまり米国と韓国、日本など同盟国は、目を背けたい質問を突きつけられている。「核武装した北朝鮮と共存していく道はあるのか。封じ込め、核兵器の使用を思いとどまらせることによって」

トランプ大統領は7日の記者会見で、交渉の手の内は明かさないとした上で、米国の軍事行動によって問題が解決されれば、北朝鮮にとって「非常に悲しい日」になると発言。「軍事行動は間違いなく選択肢だ」が、何事も不可避ということはないと述べた。

<抑止は可能か>

ただ、冷戦時代の抑止力モデルが北朝鮮のようなならず者国家相手にも適用できるかどうかは不明だと、トランプ政権高官は言う。

高官はトランプ氏の会見後、記者団に対し、「大統領はその選択肢を採りたくはないだろう」と述べ、「われわれは、北朝鮮は抑えが利かないのではないかと非常に懸念している」と続けた。

抑止力を強める選択肢の1つに、米国の老朽化した核兵器を近代化し、北朝鮮が米国や米軍基地、同盟国に核弾頭搭載ミサイルを発射した暁には同国が破滅する状況を確保することが挙げられる。

もう1つは、米国のミサイル防衛を強化すること。特に多数のミサイルを迎撃できる技術の試験、調査、開発への投資を増やすことだ。

専門家によると、いずれも中国、ロシアとの軍拡競争を誘発しないよう配慮する必要がある。

ホワイトハウスが封じ込め戦略の準備を整えている兆候は見られない。ある米高官は、経済制裁、特に中国からの制裁と対話合意を組み合わせれば北朝鮮に核開発を抑制するよう説得できるばかりか、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名させることさえ可能かもしれない、と述べた。

この高官は「CTBTへの署名は、北朝鮮の核保有国入りを黙認することになるが、実験を止めさせられる。それと相互確証破壊を組み合わせることが、考え得る限りで最良かもしれない」と見ている。

残る疑問は、トランプ氏がその選択肢を採るかどうかだ。「自制と手堅さという言葉は普通、ドナルド・トランプという名前が出てくる文中では使われない」と語るのは、ブルッキングス研究所のロバート・アインホーン氏。「いずれは他に選択肢がないことを悟るだろうか」と案じる。

マンスフィールド財団のフランク・ジャヌージ理事長は、もっと楽観的だ。「衝動的な行動を起こすのではなく、(北朝鮮に対する)抑止と封じ込めという難しい手順を進める忍耐力がトランプ氏にあるだろうか。私はあると思う。彼が物にした商談のいくつかは、結実に数年間を要している」

(Arshad Mohammed記者 Phil Stewart記者)

[ワシントン 7日 ロイター]


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