最新記事

中国政治

軍参謀ら摘発から読み解く習近平の狙い----新チャイナ・セブン予測(2)

2017年9月4日(月)08時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

この二人を第18回党大会後に逮捕することはすでに胡錦濤と習近平の間では決まっていたので、一気に大きな変動を軍内にもたらすのは危険だと判断したのだろう。房峰輝も張陽も、習近平と胡錦濤が相談の上で、第18回党大会が始まる寸前に決定した人選だった。胡錦濤は習近平が反腐敗運動を断行しやすくするために、中央軍事委員会主席の座も潔く習近平に渡したので、この人選はむしろ習近平が主導権を握って進めたと言っていい。

一方、張陽の方は徐才厚の嫡系とみなされている。なぜなら除才厚が中央軍事委員会委員あるいは副主席として1999年から胡錦濤政権時代が終わるまで中国人民解放軍の総政治部を管轄していたときに、張陽は広州軍区で同じく政治部の業務に従事していたからだ。中央で中国全土の軍区の政治部に影響を与え、「覚えめでたければ」各軍区における政治部主任の職位にありつける。この関係を「嫡系」と称している。

杜恒岩も徐才厚のお膝元、瀋陽軍区からスタートしたあと、北京軍区や済南軍区の政治部で仕事をして政治委員などを務めたあと、中央軍事委員会政治工作部の副主任に就任していた。

中央軍事委員会だけでなく、胡錦濤政権時代はチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員会委員9人)のうち6人が江沢民派だったから、胡錦濤は何もできず、実権のない地位(架空)にいたと言っても過言ではない。

習近平政権では「江沢民の流毒」とともに、軍に根を下ろしている腐敗を「徐才厚・郭伯雄の流毒」と称して警戒している。

習近平が一極集権を狙う理由はここにある

実は、第19回党大会が目前に差し迫ったこの時期に及んで、習近平が軍の参謀らの取り調べに入った背景こそが、習近平が一極集権を狙う最大の理由なのである。

北朝鮮問題を見ても、南シナ海をめぐる東アジア情勢を考えても、習近平としてはいざという場合の米中関係において、何としても軍事力を高めておきたいという逼迫した状況に追い込まれている。北朝鮮のミサイルがいつ北京に向けられるかもしれない。

だから習近平は軍関係者や兵士らに「いつでもすぐに戦える準備を整え、戦ったら絶対に勝利せよ」という檄を飛ばし続けている。

ところがその軍に、まだ腐敗がはびこっているとしたら、どうだろう?

上層部が腐敗にまみれ贅を尽くしている中で、兵士に命を賭ける覚悟が生まれるだろうか?

2016年9月中旬から10月中旬にかけて、軍上層部は5回もハイレベル会議を開いた。議題は「厳しく党を治め、厳しく軍を治める」だが、具体的には「郭伯雄と除才厚の流毒を粛清することを最重要な政治任務とせよ」というのがテーマだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イスラエル、ラファ侵攻準備 民間人避難へテント調達

ビジネス

アングル:日銀会合直後の為替介入、1年半前の再現巡

ワールド

インドネシア中銀、予想外の0.25%利上げ 通貨下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中