最新記事

貿易

NAFTA再交渉でコロナが危ない

2017年6月21日(水)10時30分
ジェシカ・ホルツァー

アメリカで人気のメキシコビール、コロナの原料はアメリカの穀物 Photo Illustration by Scott Olson/GETTY IMAGES

<協定撤廃をにおわせるトランプ政権のせいでアメリカとメキシコの貿易関係に赤信号が。ビール原料を輸出する米農家も不安でいっぱい>

ライムを搾って飲むコロナビールは最高にメキシカン......と思われるだろうが、実はそうでもないらしい。

メキシコ産ビールの主成分(ホップと大麦)は主としてアメリカから輸入されている。そして喉ごしのよいコロナやドスエキスなどのビールに変身してアメリカに戻り、スーパーの棚に並ぶ。ちなみにビールはメキシコの農産品関連の対米輸出量で上位の品目だ。

だがそんな両国のウィンウィンの関係は、NAFTA(北米自由貿易協定)に垂れ込める暗雲と共に危うくなっている。

トランプ政権のメキシコに対する厳しい姿勢が、両国の長年にわたる貿易関係を崩壊させるというだけではない。アメリカがほぼ独占してきた隣国の市場をカナダやヨーロッパの農家に奪われかねないと、アメリカの農家は懸念している。

「最大の貿易相手国を怒らせたら、どんな仕返しをされるか分からない」と、アイダホ州ソーダスプリングスの大麦生産者スコット・ブラウンは言う。

ブラウンの広大な農場は高地にあるから、作物の育つ期間が限られる。だから大麦が売れなくなっても、代わりに作れるのは小麦だけ。しかし転作にはコストがかかる。「ここは大麦地帯だ。ほかのものはうまく育たない」と彼は言う。

【参考記事】次に来るのは米中アルミ戦争

昨年、アメリカ産農産物の対メキシコ輸出額は180億ドル近くに達した。メキシコはアメリカの農業全体にとって重要な市場だが、とりわけビール用の麦芽やホップ生産者にとっては最高のお得意様。メキシコはアメリカ産大麦の最大の輸入国であり、ホップについても(米国内市場に次ぐ)第2位の市場だ。

米農務省によると、昨年メキシコが輸入した大麦と麦芽約2億6500万ドル、ホップ3700万ドルのうち、4分の3近くがアメリカ産だった。

それもこれも、NAFTAのおかげで関税がゼロになっているからだ。NAFTAの下では「アイダホ州の大麦農家は(アメリカを代表するビール生産地の)ミルウォーキーに出荷するときと同じように(メキシコの)モンテレイに輸出できる」と言うのは、米穀物協会メキシコ事務所のマーケティング担当者ハビエル・チャベス。一方で欧州産の大麦の場合は「メキシコの政治家が国内農家の保護に必要と判断すれば、いつでも輸入制限や関税をかけられる」。

しかし今、両国の関係は危うい。カナダ、メキシコ、アメリカは8月にNAFTAの再交渉を開始する。アメリカが自国に有利な協定変更をごり押しすれば、メキシコも大麦やホップなどへの報復関税で対抗するだろう。米農家はそれを恐れている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ前米大統領、麻生自民副総裁と会談=関係者

ワールド

北朝鮮「圧倒的な軍事力構築継続へ」、金与正氏が米韓

ビジネス

中国人民銀、国債売買を政策手段に利用も=高官

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中