最新記事

中朝関係

中国は北朝鮮問題で得をしているのか?

2017年5月25日(木)08時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

北朝鮮問題があろうがなかろうが、習近平国家主席はフィリピンのドゥテルテ大統領を抱き込んで、南シナ海問題は「なかった」ものであるかのような方向に昨年から持っていっている。トランプ政権が誕生する前からだ。

中国とフィリピンの蜜月を加速させているのは「一帯一路」(陸と海の新シルクロード)構想とAIIB(アジアインフラ投資銀行)であって、北朝鮮問題とはあまり関係ない。特にドゥテルテ大統領は昨年から習近平の前にひれ伏し、今年4月末に開催されたASEAN会議では「南シナ海問題」を共同声明から削除させることに成功している。だから5月初旬にトランプ大統領と電話会談した際に、「ワシントンに来ないか」というトランプの誘いを断って、北京詣でしているのだ。

もっとも、帰国後の5月19日にドゥテルテ大統領は習近平との会談で「私が習主席に『南シナ海はわれわれのものであり、石油採掘を行うつもりだ』と伝えたところ、習主席は、『南シナ海の海域でフィリピンが石油採掘を行えば、戦争になる』と警告した」と述べている。

ことほど左様に、中国の「中華帝国の夢」は習近平政権発足時点からあるのであって、ASEAN諸国がアメリカ側に付かず、中国の言いなりになっているのは、北朝鮮問題があるからではない。

もし、ASEAN諸国がアメリカ側に付くと思うのなら、アメリカは今でも「航行の自由」作戦を実行すればいいのである。

ただ、せっかく習近平を褒め殺しにして中国に北朝鮮問題を解決させようというトランプ大統領としては、まさに為替操作国問題よりも北朝鮮問題を優先したのと同じように、「南シナ海問題よりも北朝鮮問題を優先」しているのではないのだろうか。

優先させているのは、トランプ大統領だ。

習近平を褒め殺しになどしていなければ、南シナ海問題でもアメリカは中国に遠慮することなどないはずだ。もっとも、ASEAN諸国が歓迎するか否かは、別問題だが......。

したがって「北朝鮮が騒ぐから、中国が得をしている」のではなく、トランプが「習近平褒め殺し作戦」などに出るから、アメリカが中国に遠慮しなければならない状況を作ってしまった。

鈴木棟一氏のコラムの最後の部分にある河井氏の言葉に関して、何が引っ掛かったのか、自分でもよく分からなかったが、こうして文章化してみて、ようやく見えてきた。

ジレンマに追い込まれている習近平

5月14日の「一帯一路国際協力サミットフォーラム」の朝、北朝鮮がミサイルを発射したことに、習近平がどれだけ度肝を抜かれ、どれだけ思いっきり顔に泥を塗られたかは言を俟(ま)たない。

目はうつろで、開幕のスピーチを、何度まちがえたことか!

こんな習近平のしどろもどろとした表情とスピーチは見たことがないほどだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

無視できない大きさの影響なら政策変更もあり得る=円

ビジネス

ECB当局者、6月利下げを明確に支持 その後の見解

ビジネス

米住宅ローン金利7%超え、昨年6月以来最大の上昇=

ビジネス

米ブラックストーン、1─3月期は1%増益 利益が予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中