最新記事

アメリカ経済

トランプ税制改革案、まったく無駄だった100日間の財源論議

2017年4月28日(金)16時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

米国は、輸出より輸入が多い貿易赤字国である。国境調整税を導入すれば、大きな税収増が見込める。税制改革の財政負担を軽減するために、国境調整税は必要だったのだ。

しかしトランプ政権は、今回の基本方針で、国境調整税を支持しなかった。国境調整税に対しては、日本などの貿易相手国だけでなく、輸入品の価格上昇を危惧する米国内の小売業界などからも、強い反対があった。そもそも国境調整税は、トランプ政権の公約にはなかった提案だ。国内の反対論への配慮もあり、議論を振出しに戻した格好である。

国境調整税を支持しなかったからといって、税制改革の財政負担を軽減するために、トランプ政権が減税の規模を小さくしたわけでもない。

米国の調査機関である「責任ある連邦財政のための委員会」によれば、基本方針で提案された減税の規模は、向こう10年間で5兆ドル台に達する。選挙公約当時の減税額は、向こう10年間で6兆ドル強と試算されていた。今回の基本方針では、租税特別措置の整理など、多少の配慮が示されたが、財政負担の大きさは、ほとんど公約当時と変わっていない。

金持ち優遇も手つかず

議会共和党の懸念が解消されないのであれば、トランプ政権には議会民主党に協力を求める道がある。しかしここでも、公約当時からの問題は解決されていない。

トランプ大統領が公約してきた税制改革に対し、議会民主党は金持ち優遇との批判を繰り広げてきた。所得税の最高税率引き下げなど、富裕層に恩恵が大きい改革だからである。

今回の基本方針からは、多少の配慮は感じられる。所得税の最高税率は、現行の39.6%から35%への引き下げが提案された。公約では33%とされており、富裕層の恩恵は小さくなった。同時に、所得税の最低税率は、公約の12%から10%へと引き下げられている。

しかし、金持ち優遇のシンボルとなるような提案は残された。米国では、ビジネスの収入を、企業のオーナーの収入として、法人税ではなく、所得税で払う方法がある。個人事業主や弁護士、ファンド・マネージャーなどが利用しているやり方だ。トランプ大統領は、そうした収入にかかる所得税の税率を、現在の最高税率である39.6%から、一気に15%に引き下げると公約してきた。法人税の最高税率も、現在の35%から15%に引き下げる方針だが、それと税率を揃えようというわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-中国長期債利回り上昇、人民銀が経済成長見通し

ワールド

米上院、ウクライナ・イスラエル支援法案可決 24日

ビジネス

米、競業他社への転職や競業企業設立を制限する労働契

ワールド

ロシア・ガスプロム、今年初のアジア向けLNGカーゴ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中