最新記事

北朝鮮

北朝鮮・シリアの化学兵器コネクション

2017年4月21日(金)12時10分
李英和(関西大学教授)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載

2013年に北朝鮮を訪問したシリアの与党バース党幹部と金正恩 KCNA- REUTERS

去る4月4日、シリアのアサド政権が自国民に向けて化学兵器による攻撃を行った。毒ガスの種類は猛毒の神経ガス、サリンとみられる。この毒ガス攻撃では子供31人を含む88人が死亡する大惨事となった。

世界中がアサド政権の蛮行に衝撃を受ける中、そのわずか2日後にさらなる衝撃が走った。アサド政権による化学兵器使用を理由に、米軍が巡航ミサイルによりシリアの空軍基地を爆撃したのである。それも米フロリダ州でのトランプ米大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談の最中だった。

米中首脳会談の主要議題の一つは北朝鮮の核ミサイル問題だった。それだけに、今回の米軍によるシリア爆撃の「真意」について、北朝鮮問題に絡めて大いに臆測を呼んだ。トランプ政権がシリア空爆を通じて北朝鮮の金正恩政権を強くけん制する「政治的メッセージ」を送ったという見方が、専門家やメディアの間で大勢を占めている。

【参考記事】米空母「実は北朝鮮に向かっていなかった」判明までの経緯

核・化学兵器の双方を開発

私見では、このような見立ては半分正解、半分間違いだ。確かに、北朝鮮へのけん制ではある。だが「間接的」なけん制ではなく、もっと「直接的」な警告が込められている。

端的に言えば、今回のアサド政権軍による化学兵器使用は、北朝鮮軍の「代理実験」である疑惑が色濃い。そうだとすれば、アサド大統領と金正恩党委員長は非人道的犯罪の「共謀共同正犯」ということになる。

北朝鮮は化学兵器禁止条約(CWC)に加盟していない。現在、未加盟国は北朝鮮に加えイスラエル、エジプト、南スーダンの4カ国だけだ。未加盟であること自体が化学兵器の保有を強く疑わせる。それでも北朝鮮は化学兵器の保有を否定するが、北朝鮮の言い分を信じる専門家はほとんどいない。この点については、脱北者の証言にも事欠かない。これには北朝鮮軍で化学兵器を扱った経験のある筆者のいとこの証言も含まれる。

北朝鮮は現在、約5000トンの化学兵器を保有する。北朝鮮は「東方の核強国」を自称しているが、同時に文句なしの「東方の毒ガス大国」だ。

化学兵器は「貧者の核兵器」とも呼ばれる。貧しい国は核ミサイル開発の技術と資金を持たない。その代わりに、悪魔に魂を売り渡しさえすれば、比較的容易に持てる大量殺りくの手段が化学兵器だ。ところが、北朝鮮は20年以上も前から核兵器開発に成功している。それにもかかわらず「つなぎ役」の化学兵器を廃棄せず、後生大事に今も隠し持つ。金正恩政権は核兵器と化学兵器の大量破壊兵器「二刀流」を使う構えのようだ。

以下では、その北朝鮮とシリアの化学兵器をめぐる「根深い関係」を見る。その際、歴史的経緯をごく簡単に確認した上で、最近2年間ほどの動向に焦点を当てる。

ニュース速報

ビジネス

ドル112円前半で動きづらい、ユーロ/ドルは1年ぶ

ビジネス

出光興産、月岡社長らの取締選任議案を可決

ワールド

シリア、米警告で化学兵器封印か マティス国防長官が

ワールド

武装勢力が占拠の比マラウィ、頭切断された住民5人の

MAGAZINE

特集:安心なエアラインの選び方

2017-7・ 4号(6/27発売)

アメリカの航空会社で続発する乗客トラブル。トラブルを避け、快適な空の旅を楽しむ「新基準」とは

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    アメリカで「最も憎まれる男」の所業とは?

  • 2

    米学生は拷問されたのか? 脱北女性「拷問刑務所」の証言

  • 3

    トランプが特別検察官ムラーを恐れる理由

  • 4

    米国はシリアでイスラーム国に代わる新たな「厄介者…

  • 5

    ダイアナ元妃は、結婚前から嫉妬に苦しんでいた

  • 6

    中国シェア自転車「悪名高きマナー問題」が消えた理由

  • 7

    地方学生が抱える奨学金ローンの破綻リスク

  • 8

    ベネズエラ、警察ヘリが最高裁と内務省を攻撃 大統…

  • 9

    東京都議選の候補者が、政策を訴えるビラを配れない…

  • 10

    シリア東部はアサドとイランのものにすればいいーー米…

  • 1

    米学生は拷問されたのか? 脱北女性「拷問刑務所」の証言

  • 2

    海自の護衛艦いずも 南シナ海でレーダーに中国軍とおぼしき機影

  • 3

    人類滅亡に備える人類バックアップ計画

  • 4

    世界最恐と化す北朝鮮のハッカー

  • 5

    中国シェア自転車「悪名高きマナー問題」が消えた理由

  • 6

    ドイツでタイ国王がBB弾で「狙撃」、これがタイなら.…

  • 7

    ダイアナ元妃は、結婚前から嫉妬に苦しんでいた

  • 8

    シリアで米軍機を撃墜すると脅すロシアの本気度

  • 9

    ロンドン高層住宅の火災、火元は米ワールプールの冷…

  • 10

    アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島…

  • 1

    国交断絶、小国カタールがここまで目の敵にされる真の理由

  • 2

    人相激変のタイガー・ウッズが釈明 いったい何があったのか

  • 3

    アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島の衝撃

  • 4

    大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出 

  • 5

    米学生は拷問されたのか? 脱北女性「拷問刑務所」…

  • 6

    佐藤琢磨選手のインディ500優勝は大変な快挙

  • 7

    就任5カ月、トランプは馬鹿過ぎて大統領は無理

  • 8

    ロンドン高層住宅火災で明らかに イギリスが抱える…

  • 9

    アイシャを覚えていますか? 金正男暗殺実行犯のイン…

  • 10

    ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

全く新しい政治塾開講。あなたも、政治しちゃおう。
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2017年6月
  • 2017年5月
  • 2017年4月
  • 2017年3月
  • 2017年2月
  • 2017年1月