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監督インタビュー

ファッションは芸術たり得るか? 汗と涙のドキュメンタリー『メットガラ』

2017年4月17日(月)12時20分
大橋 希(本誌記者)

――映画に登場するデザイナーの中には、ファッションが美術館に展示されることに懐疑的な人もいる。

カール・ラガーフェルド(フェンディ、シャネルでデザイナーを務めた)はファッションを(実用性をふまえた)「応用美術」と呼んでいる。彼が考える「デザイナー」とは、裕福で美的センスを持った女性たちの求めに応じて、そのアイデアを服にしていくこと。それはデザイナー個人の問題ではなく、シャネルに受け継がれてきたレガシーの一部でもあるが。

ラガーフェルドという人物がもともと、ファッションがアートと見られることに懐疑的であることは有名な事実。彼は、デザイナーが「自分の作品作りは......」と上から目線になることを憂えている。服飾とは美術的なものであると同時に商業的なものであり、密閉されたような美術館のような空間ではなくわれわれの生活の中に存在するものだと考えている。

ボルトンは、そういう捉え方もあると承知しつつ、芸術品としてのファッションの可能性を排除していない。どんな風に作られて、どんな文化的意味があり、どんな言語を持っているのか。第一印象を越えて、その意味を分析し探っていく価値があるかどうかを考えていたと思う。

【参考記事】20年目に大復活した『トレインスポッティング』

僕としては、その両方の意見の対立関係は大歓迎。むしろ異なる意見を見せて、みんなが考えるきっかけにしてほしかった。「ファッションは芸術たり得るか?」に対する僕の答えは、最後にボルトンが歩いている場面にある。

さまざまな服を着たマネキンがまるで生き物のように感じられた。お店でハンガーにかかっている服とは違い、生き物のように見えたんだ。ほかのギャラリーに展示されている美術品や彫刻と同じようなレベルまで、それらの作品は昇華されていた。これが僕の答えだ。

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15年の企画展「鏡の中の中国」 ©2016 MB Productions, LLC

――1人の人間が物の見方を変えることもある、そんな可能性を見せてくれた映画だと思う。あなた自身が発見したものは?

作り手として、映画作りの中で学んださまざまな教訓を真に自覚するのは難しいことでもある。もちろんアートとしてのファッション、伝達手段としてのアートというものへの理解は深まったし、METに身を置くことで美学というものの伝統への認識を深めることもできたが。

僕がすごくわくわくしたのは、(映画監督の)ウォン・カーウァイを撮影できたこと。彼は「鏡の中の中国」展のクリエイティブコンサルタントを務めていたが、例えば中国文化を表現するときに気遣うべき点について、すごく穏やかに、でもしっかりとボルトンを導いていた。そこにすごく感銘を受けた。

映画ではカットしているが、照明デザインやインスタレーションへの貢献でも素晴らしいものがあった。柔らかいけど的確な、物事への関わり方は見ていてとても興味深かった。

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