最新記事

教育

「反逆する団塊」や「ゆとり世代」を生んだ学習指導要領の変遷

2017年3月15日(水)17時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

(1)~(9)の学習指導要領の実施期間で塗り分けた図の上に、それぞれの世代の軌跡線を引いてみる。筆者の世代の軌跡は、(83年、小1)と(94年、高3)を結んだ直線(緑)で表される。そのほか、1940年生まれ(赤)、48年生まれ(黄)、68年生まれ(紫)、84年生まれ(青)、95年生まれ(ピンク)、2010年生まれ(茶色)の軌跡線を書き込んだ。

maita170315-chart01.jpg

今年の大学4年生は、学校生活のほとんどを(7)のもとで過ごしてきた世代。ゆとり教育を掲げ、教育内容を3割削減した学習指導要領だが、その洗礼をもろに受けた「ゆとり世代」ということになる。

この世代の会社選びの基準は、企業規模や給与よりも、育児休業の取りやすさや残業の少なさといった「働きやすさ」にあるという(日本経済新聞、2017年3月15日)。最近、長時間労働が社会問題化していることもあるかもしれないが、ゆとりを重視した学習指導要領の影響も幾分かはあるだろう。

そういう筆者も「ゆとり世代」の1人だ。(5)の指導要領は、高度経済成長期の能力主義を反省し、「ゆとり」「精選」の方針のもと、授業時数を削減したものだった。社会奉仕や勤労体験学習が重視されたのも特徴で、その効果があったのか、数でみて非行が最も少なかった世代でもある。

その一世代上の68年生まれは、逆に非行が最も多かった世代(delinquent generation、非行世代)として知られる。80年代初頭の「非行第3ピーク」の担い手はこの世代だ。児童期を(4)の能力主義の指導要領で過ごし、思春期になって「ゆとり」「精選」に方向転換されたのだが、それに伴いタガが外れてしまったのだろうか。教育方針の急転が、多感な思春期の入口と重なったのは不運だったかもしれない。

黄色の48年生まれは、人数的に最も多い団塊の世代。児童期は、法的拘束力がなく授業時間も一律に定められていなかった「ゆるい」指導要領で育ったが、思春期になってから締め付けが厳しくなる。能力主義の方針のもと、高校の職業学科が細分され、差別的な選り分けにも晒された。そうした教育への反発から、学生運動の闘志が生まれたのかもしれない。

【参考記事】ネットでコンテンツの消費はするが、発信はほとんどしない日本の子どもたち

84年生まれは、今世紀初頭の「キレる子ども」と呼ばれる世代だ。一貫して(6)の指導要領で育ったが、10代の時期にインターネットの普及という社会変革を経験した。指導要領の上では「情報化社会への対応」がうたわれたが、当時の脆弱な情報教育では青少年を情報化社会に適応させるのは難しかったようだ。高校で情報科という必修教科が設けられたのは、その後の(7)の指導要領からだ。

一番下の2010年生まれは、これから小学校に上がり、次期学習指導要領に基づいた教育を受けることになる。プログラミング教育、小3からの英語教育、アクティブ・ラーニング(AL)......。まさに21世紀型の人間形成が試みられる。

教育は時代や社会によって異なる。教育社会学の基本テーゼだが、学習指導要領の歴史的変遷は、それを教えてくれる興味深い題材だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中