最新記事

アメリカ経済

トランプに雇用創出を約束した孫正義の、最初の「買い物」は?

2017年3月1日(水)11時00分
ダニエル・グロス

いち早くトランプ・タワーを訪れて雇用創出を約束した孫正義は世界を驚かせたが Brendan McDermid-REUTERS

<ソフトバンクが米投資会社の買収を発表したが、これでは中西部のブルーカラーは救われない>

日本の通信大手ソフトバンクグループの孫正義社長は昨年12月、米大統領選に勝利して間もないトランプを訪問し、アメリカで500億ドルの投資を行い、5万人の雇用を創出すると約束した。

一見すると孫は、就任前から雇用創出の「実績」をアピールしたがっていたトランプに助け舟を出そうとしたようだ。そして先月、最初の舟を送り出した。傾きかけた投資会社フォートレス・インベストメント・グループを約33億ドルで買収すると発表したのだ。

だがソフトバンクがフォートレスを買収しても、中西部の工場労働者は救われない。マンハッタンの高層ビルにいるファンドマネジャーの傷ついたエゴが癒やされるだけだ。トランプ時代の約束とはどういうものかをこれほど端的に示す例はない。

【参考記事】ついに中国で成立した「トランプ」商標登録

フォートレスは07年2月にプライベート・エクイティ(未公開株)やヘッジファンドの運用会社としては初めてIPO(新規株式公開)に踏み切り、大きな注目を浴びた。同社はブッシュ政権時代の信用ブームで急成長し、上場時の運用資産は約300億ドルに上っていた。IPO価格が1株18・50ドルだったフォートレス株は公開初日に35ドルまで上昇。株式時価総額は約140億ドルになり、経営陣の個人資産も一気に膨れ上がった。

だが凋落も早かった。

市場が崩壊しても損失が出ないどころか、うまくやれば大いに稼げるのがヘッジファンドの醍醐味だ。しかし08年の金融危機後、フォートレスははかばかしい投資実績を出せなかった。同社の株価は07年2月から09年1月までに97%も下落。その後、市場全体が回復するに伴いどん底からはい出したが、もはやかつての勢いはなく、ソフトバンクが買収を発表する直前の株価は5・82ドルだった。

上場後のこの10年間でスタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数が60%余り上昇する一方で、フォートレス株は約80%下落したことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中