最新記事

インタビュー

世界も、今の人たちも、和食の素晴らしさをまだ知らない

2016年12月29日(木)11時06分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

永山流食生活は「日本庶民史の再現」だった

――そうした理想的な食生活を実践・提唱するにあたっては、自らの経験だけでなく、食文化史の研究も影響しているのか。

 私の場合の食文化研究というのは、縄文人から現代人までの、庶民目線の食生活の歴史を研究することです。すなわち、庶民の食の知恵の集大成を調べ、まとめ、記録として残すことでした。新聞の連載記事として、日本中の農村・漁村・山村を歩き回って聞き取り、実際に食し、体験しました。

 さらには、日本の長寿村と呼ばれる場所を訪ね、長寿者が何を食べているのか、どんな食事をしていたお陰で長生きできたのか......を調べました。この取材は大いに役に立ち、私の食生活の考え方にも影響を与え、助かりました。

 私のビンボー暮らしの中の"食物篇"は、まさに日本庶民史の再現だったような気がします。それだけに、今の人たちにもこれらの知恵を伝えていくのが私の役目。「日本人が食べてきた食事」を語り続ける、食の語り部になろうと考えています。

――著書では、その"ビンボー暮らし"について赤裸々に語っているが。

 次々とやって来る人生の挫折。その結果として、実に長い長いビンボー生活でした。お金がなく、50代半ばまでシンプルな食事しかできませんでした。しかし、おかげで糖尿病にもならず、いい結果になったようです。

 昔は八百屋でも魚屋でも、クズやアラを超安価に入手できましたが、それを工夫して食べていたことが食文化史研究のベースになりました。プラス、生涯現役力の強化につながったような気がしています。

 頭を使って工夫しました。常に陽気に笑ってきました。ビンボー時代の習慣で今でも身についているのが、「パンポン・パンポン」の掛け声で、これでどれほど気持ちが明るくなったことか。親子3人で、互いの開いた両手に自分の手を合わせ、同時に、歌うように「パンポン・パンポン」と唱える。

 今思えば、つらい現実をのり切るための呪文だったような気がします。特に子どもがそれを好きで、「お父さん、パンポン!」とよくねだりました。家だけでなく、小学校でもクラスの友達とやったので、子どもはパンポンと呼ばれていたそうです。赤塚不二夫の漫画に「バカボンのパパ」という親父のキャラクターがありますが、私は「パンポン親父」でした。

――最後に今後の抱負を。著書には「残っている住宅ローンを早く返済して、もう一度マンガ家に挑戦したいのです。90歳で再デビューを目論んでいます」とあるが。

 人生は夢と道づれ。

 どうやって実現するか。失敗するかもしれない。しかし、挑戦するのが夢。その連続が人生のような気がします。私の場合、「長寿食グルメ」を追い続ける男を主人公にした漫画を描くこと。美味きわまりない長寿食がテーマなのです。

 脳が歓喜にふるえ、長寿遺伝子をオンにしてしまうような、そんな美味なる長寿食を見つけること。あるいは、創作してしまうこと。「長寿食グルメ」を追求しながら、私自身も長生きし、新しい長寿者タイプを作り出していきたいと考えています。漫画の主人公の名は「ひげ先生」で、本のタイトルは「ひげ先生の長寿食」であります。


『ひと月1万円!体にやさしい
 昭和のシンプル食生活』
 永山久夫 著
 CCCメディアハウス


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3% 市場予想

ビジネス

バイオジェン、1―3月利益が予想超え 認知症薬低調

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ワールド

バイデン氏陣営、選挙戦でTikTok使用継続する方
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中