最新記事

移民政策

まるで鎖国、トランプ移民政策のすべて──専門職やグリーンカードも制限、アメリカの人口も減る!

2016年11月10日(木)18時30分
アレックス・ナウレステ(米ケイトー研究所、移民政策アナリスト)

メキシコとの国境地帯を訪れたトランプ Rick Wilking-REUTERS

 米大統領選でドナルド・トランプが勝利し、政治の世界に激震が走った。彼が最もこだわってきたのが移民政策だ。選挙戦を通じて強硬な立場を崩さなかった。接戦を制した今、トランプや共和党の強硬派は、公約の柱としてきた移民政策をここぞとばかりに実行に移すはずだ。

 トランプの勝利演説は薄っぺらかったが、移民政策の方針書に至っては詳細で具体的。簡単にいうと、トランプ政権はグリーンカード(永住権)の発給を現行より20~60%削減し、出入国管理にあたる職員を大幅に増員するという。これまでは親が外国人でもアメリカで生まれた子供はアメリカ人になれたが、その制度もやめるという。以下が具体的な中身だ。

壁の建設は本気

1) メキシコとの国境に壁を建てる

 全長1600キロの壁を建設する。ただし現時点で約1100キロの壁や柵はすでに存在する。「バーチャルな」壁になる可能性もあるが、トランプはかねてから強固な本物の壁を造るとぶち上げていた。

【参考記事】トランプ、言った者勝ちの怖さ
【参考記事】「不法移民防止の壁」で死にゆく野生動物

 壁建設の目的は不法移民の入国を阻止することだが、実のところ、アメリカへの不法入国者の数は1970年代以降で最も低い水準にとどまっている。事実と異なる国境地帯の混乱ぶりばかりが喧伝されるが、ヨーロッパのような危機とは違う。

 不法移民を今以上に減らす最適な方法は、非熟練労働者が短期的に働ける就労ビザを創設するか、既存の制度を充実させることだ。だがトランプの方針はそうした選択肢を排除している。

2) 全米でE-Verifyシステムの導入を義務付ける

 E-Verifyは国土安全保障省(DHS)と社会保障庁(SSA)が共同で開発した、新規採用者のアメリカでの就労資格を確認するオンライン・システムだ。身元に関する個人情報を米政府のデータベースに送ることで、就労の許可や却下が決定される。導入を全米で義務付けることで、正式な書類を持たない移民は雇用できなくするのが狙いだ。

 E-Verifyを導入すれば、今でさえアメリカ国内で雇う従業員一人につき13.48時間をかけて就労資格証明(フォームI-9)を作成しなければならない雇用主にとって、さらなる負担となる。E-Verifyのデータベースの情報との不一致が発覚すれば、多くの合法なアメリカ人労働者の雇用の許可が下りずに雇用手続きが遅れる懸念がある。身分証明書が闇市場に出回るのを助長し、システムの導入にかかる税金や企業のコストが数十億ドル規模に膨らむといった弊害も指摘されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル

ビジネス

焦点:連休中の為替介入警戒、取引減で再動意も 米当

ビジネス

LSEG、第1四半期決算は市場予想と一致 MSとの

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中