最新記事

サイエンス

すぐに拾えばOK?「5秒ルール」の真実

2016年11月2日(水)10時30分
イアン・グレイバー・スティール

Mark Webster-Cultura/GETTY IMAGES

<一瞬だけ床に落とした食べ物なら口に入れても大丈夫――。多くの人が信じてきた「俗説」を科学的に検証してみたら>

 食べ物をうっかり床に落としてしまい、慌てて拾った経験は多くの人にあるはず。そんなとき、こんな考えが脳裏に渦巻くのではないか――ほんの一瞬だから、食べても大丈夫だよね? だっておいしそうだし。でも、最後に床を掃除したのはいつだっけ?

 床が清潔そうで、落ちたものをすぐに拾ったのなら口に入れてもOKだと、たいていの人は考える。いわゆる「5秒ルール」だ(日本では3秒)。ある調査では、回答者の87%が食べ物を床に落としても、すぐに拾って食べる、あるいは実際に食べたことがあると答えた。

 では、この5秒ルール、科学的に見て正しいのだろうか。米クレムソン大学の研究者らは07年、カーペットと木製の床、そしてタイルの床にそれぞれソーセージとパンを落とし、ネズミチフス菌(食中毒の原因となるサルモネラ菌の一種)がどの程度付着するかを、時間別に調べる実験を行った。

 その結果、ネズミチフス菌の付着は食べ物が床に落ちた瞬間から始まることが確認された。ただし床に落ちていた時間が長くなるほど、付着する細菌も増えることも分かった。つまり、「一瞬でも床に落ちたらアウト」という意味では5秒ルールは間違っているが、「短時間で拾い上げるほうが付着する菌が少ない」という意味では正しいというわけだ。

【参考記事】CO2からエタノールを効率良く生成する方法、偶然発見される

 この実験結果は、英アストン大学による14年の研究でも裏付けられている。「5秒ルールはただの俗説だという声に負けず、長年このルールを信じてきた人々が安心できる結果が出た」と、同大学のアンソニー・ヒルトン教授は言う。

 今年9月には米ラトガーズ大学の研究チームが、5秒ルールの正当性を2年にわたって検証した結果を発表した。彼らは木材とステンレス、タイル、カーペットの4種類の床の上にバターを塗ったパンやスイカ、グミなどの食材を落とし、それぞれ1秒、5秒、30秒、5分間置いて細菌の付着状況を調べた。

職場の床は意外に清潔

 結果は先行研究と一致するものだった。食べ物を床に落とした直後に細菌の付着が始まる一方、床に落ちている時間が長いほど付着する細菌も増えた。

 一方で、床のタイプや落とした食べ物の種類が、拾うまでの時間と同等かそれ以上に細菌の付着状況を左右することも明らかになった。細菌が最も付着しやすいのはステンレスの床、最も付着しにくいのはカーペットだった。また食べ物に含まれる水分が多いほど細菌の付着率も高くなり、スイカが最も多くの細菌を集めた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中