最新記事

アフリカ

悪臭放つアフリカ連合(AU)も解体せよ

2016年7月11日(月)18時15分
ジョージ・アイッティー(米自由アフリカ財団理事長)

Francois Lenoir-REUTERS

<形だけEUをまねたアフリカ連合(AU)は大失敗で、設立以来15年、何一つ達成していない。ならず者国家も破綻国家も加盟し放題、加盟国で戦争犯罪や不正選挙があっても内政「不干渉」、そして「1マイルの道路も作らなった」という非効率。イギリスの離脱でEUが再出発を求められている今、AUも作り直す必要がある> (写真右は、2010年、リビアのトリポリで第3回EU・アフリカ首脳会議を主催したカダフィ)

 イギリスのEU離脱は、EUとイギリスばかりでなく、アフリカにとっても新しい始まりだ。

 アフリカ大陸の国々は大半が1960~1970年代に独立したばかりなので、これれまでひたすら西欧の政治制度をまねてきた。バチカンにサンピエトロ大聖堂があれば、コートジボワールの首都ヤムスクロにはそれより大きいバシリカ大聖堂が建つ。フランスに皇帝がいたと聞けば、ジャン・ベデル・ボカサのように2500万ドルをかけて即位式を行い中央アフリカ帝国皇帝になった者もいる。アメリカに宇宙センターがあるなら、ナイジェリアにも作る。人口の半分以上が1日1.25ドルで生活している国が、宇宙センターに8900万ドルを費やした。アフリカ大陸を覆う「輸入品」の残骸のなかでも、いちばんひどい悪臭を放っているのがEUをまねたAU(アフリカ連合)だ。

【参考記事】「幽霊国家」が崩壊? 中央アフリカの異常事態

 少なくとも世界経済危機の頃から、そしてイギリスがEU離脱を決めた国民投票の後はとくに、EUはヨーロッパのために機能し得ないことがはっきりした。アフリカの指導者も、EUをまねただけの虚飾の塊がアフリカのためにならないことを認めるべきだ。

アフリカ大統領になろうとしたカダフィ

 AUは2001年に設立された。植民地時代以来の初の汎アフリカ機関だったOAU(アフリカ統一機構)の後を継いだ。AUを構想したのはリビアのムアマル・カダフィ将軍(当時)だ。自らを「王の中の王」と称していたぐらいだから、アフリカ合衆国の最初の大統領になろうという妄想を抱いていたとしてもおかしくはない。新組織の目標は、国際社会に対してアフリカが統一戦線を張ることと、大陸の開発をスピードアップすることだ。だがAUは組織設計のまずさから最初から躓いた。権力が集中しているのに求心力は弱く、組織として機能しなかったのだ。

【参考記事】カダフィ退場でほっとするアフリカ

 AUの意思決定権はAU委員会に集中している。AU委員会は、EU委員会に相当する行政組織で、政策を提案し、AU議会などの決定を執行する。AU委員会は予算も管理し、加盟国はその政策提案に対して何の影響力もない。54カ国と2000以上の民族が集まる大組織のなかでは、中央に権力が集まり過ぎていた。AU委員会の力はほとんど疑惑や陰謀を生み出すだけで、最後は加盟国の抵抗に合った。

 誰にでも加盟を許したのも勘違いだった。EUに加盟するためには厳しい政治的経済的条件を満たさなければならないが、AUには、どんな「ならず者国家」も破綻国家も入ることができた。実際、出資金の滞納で前身のOAUを追放されるべきだった18カ国も、カダフィが滞納分を立て替えて加盟させていた。AUはまた加盟国の内政には不干渉を貫いている。戦争犯罪や人権侵害を犯した政府を怖がらせないようにするためだ。その結果今では、モロッコを除くすべてのアフリカ諸国がAUのメンバーになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子供を「蹴った」年配女性の動画が大炎上 「信じ難いほど傲慢」

  • 3

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スーパーで買い物客7人が「大乱闘」を繰り広げる動画が話題に

  • 4

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 5

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 9

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中