最新記事

インド

水面下で急増するインドの不良債権、国営銀行のリスク浮上

破綻資産はニュージーランドの経済規模1700億ドルを上回るとの厳しい見方も

2016年5月15日(日)15時07分

 5月12日、インドの不良債権問題は金融機関が認めてきた水準よりずっと深刻で、銀行の収益を一段と圧迫している。写真はインド準備銀行のラジャン総裁、ワシントンで4月撮影(2016年 ロイター/Joshua Roberts/File Photo)

インドの不良債権問題は金融機関が認めてきた水準よりずっと深刻で、銀行の収益を一段と圧迫している。同国のディストレスト(破綻)資産はニュージーランドの経済規模1700億ドルを上回るとの厳しい見方もある。

事の重大さが露呈したのは先月、インドの民間大手2行が不良債権について前例のない詳細なデータを発表したのがきっかけだ。インド準備銀行(中央銀行、RBI)のラジャン総裁が繰り返し警告してきた、銀行のバランスシート健全化の必要性が裏付けられることになった。

実際、銀行融資の伸びは2015/16会計年度は10.7%と、約20年ぶりの低水準にとどまった。不良債権の大半を占める鉄鋼など過剰債務を抱える業界への貸し出しを控えたことが一因だ。

また大半の銀行が、RBIの健全化方針に従い、債務不履行(デフォルト)への引当金を積み増し、過去6カ月間に収益が悪化したこともある。

格付け大手フィッチ・レーティングスのインド関連会社、インド・レーティングス・アンド・リサーチのアブヒシェク・バッタチャリヤ氏は「銀行は常に高水準の引当金を維持しなくてはならない。そうすると利益が圧力を受け続けることになる」と指摘した。

同氏の試算では、銀行融資の20%に相当する約13兆ルピー(1950億ドル)がすでに回収困難な状況にある。ディストレスト債は昨年12月時点で全体の11.5%にあたる8兆0600億ルピーと発表されていたが、それを60%上回る水準であり、ニュージーランド経済を超えるほどの規模となる。

<抜本的な外科手術が必要>

ラジャンRBI総裁は、バランスシートへの「抜本的な外科手術」が必要だとし、2017年3月までにすべての不良債権を開示し、引き当てを行うことを求めている。

投資家やアナリストは以前から、インドの金融機関、特に支配的立場にある国営銀行が、引き当ての必要を避けるため、債権不良化の状況を正しく開示していないのではないかと疑ってきた。

そこへ先月、民間銀行首位のICICI銀行と同3位のアクシス銀行が、初めて不良債権の詳細な内容を公表したことで、問題の根深さが浮き彫りとなった。

アクシス銀行は2260億ルピーの融資を「ウォッチリスト(監視対象)」としたことを公表し、このうち60%が2年以内にデフォルトに陥るとの予想を示した。その通りなら、不良債権は3月時点で公表された608億8000万ルピーから急増することになる。

ICICI銀行は、鉄鋼や電力など経営不振の業種に対する約5250億ルピーの融資を「監視」していることを明らかにした。

格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスでは、信用格付けを行う11の国営銀行の不良債権比率を10.5─12%と見積もっている。昨年12月末時点で発表された数字は7.2%だった。

ムーディーズの在シンガポール・バイスプレジデントのアルカ・アンバラス氏は「(国営)銀行が経済成長を支え、融資を提供する能力は、最終的にはインド政府がいかに資金面を支援するかにかかっている」と述べた。

これら国営銀行は金融業界の資産の3分の2以上を占め、不良債権の約85%を抱えているため、減速する経済をてこ入れしたい政策担当者にとってまさに頭痛の種だ。

インド・レーティングスのバッタチャリヤ氏は「我々の印象では、好転するより先に事態が悪化する可能性がある」と話した。

(記者:Devidutta Tripathy 翻訳:長谷川晶子 編集:加藤京子)



[ムンバイ 12日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中