最新記事

ニッポン社会

飛べよピーポ、飛べ。そしてズボンをはきなさい

警察のシンボルはもっと強そうであるべきじゃない? コリン・ジョイスの「新作」日本論より(1)

2016年2月19日(金)06時05分

これが警視庁のマスコットキャラクター 日本ではほとんどあらゆるものがかわいらしいキャラクターをシンボルにする必要性があることを示す典型的な例(『新「ニッポン社会」入門』より)

 イングランドのエセックスに住む英国人ジャーナリストが、日本社会の"入門書"を書いた。それも、日本の読者向けに日本で出版したのである。以前は日本に住んでいたというが、イギリスに帰ってもう5年。そんな人物に書く資格が――あるのだ。その人物はコリン・ジョイスだから。

 本誌ウェブコラム「Edge of Europe」でもお馴染みのコリン・ジョイスは、92年に来日し、高校の英語教師や本誌記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員などを経て、2007年に日本を離れた(ちなみに、詳しいプロフィールはこちら)。

 06年に著した『「ニッポン社会」入門』(谷岡健彦訳、NHK生活人新書)は10万部を超えるベストセラーに。その後も、『「アメリカ社会」入門』(谷岡健彦訳、NHK生活人新書)、『「イギリス社会」入門』(森田浩之訳、NHK出版新書)と、鋭い観察眼と無類のユーモアを注ぎ込んだ一連の著作で多くのファンを獲得している。

 このたび、「日本を懐かしいと思えるようになりたかった」というジョイスが、見事にその願いをかなえ(?)、新刊『新「ニッポン社会」入門――英国人、日本で再び発見する』(森田浩之訳、三賢社)を上梓した。思いもよらない新たな発見が綴られた「目からウロコ」の日本論であり、抱腹必至のエッセイ集でもある本書から、一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。

 以下、まずは「9 ゆるキャラ、侮るなかれ」から。

◇ ◇ ◇

 人が笑ってはいけないときに限って笑ってしまいがちな原因に迫った科学的研究はないのだろうかと、ぼくは思うことがある。長いことぼくは、笑ってはいけないときに笑ったことでかなり面倒を引き起こしてきたから、誰かがその原因を(できれば解決策も)見つけてくれたらとても助かる。

 最近そういう事態に陥ったのは、東京の博物館の静寂の中だった。ぼくは友だちといっしょに版画のコレクションを観賞していた。明治維新後に新しい思想や発明がどんどん入ってきたすばらしい時代の東京を描いた作品群だ。おそらくぼくは自分を賢く見せたかったのだろう、このテーマについて持っている乏しい知識を披露しようとした(「当時の男性は洋服と和服を合わせて着ていたなんて面白いな」とか「浅草の五重の塔は、以前は浅草寺の右側にあったことがわかるでしょ」とか)。

 それから友だちが口にした言葉に、ぼくは恥ずかしいほど爆笑してしまった。よりたくさんの人が、変な人だという目でぼくを見たので、事態はさらに面倒なことになってしまった。ぼくは笑いを押し殺そうとしたのだが、そのせいで鼻からおかしな音が出てしまい、まわりの人たちは今度はぼくを見ないようになった。いかれたやつだと思われた確かなしるしだ。そのせいでぼくはまた笑ってしまい、落ち着きを取り戻すまでにかなりの時間がかかった。友だちが口にした言葉は「あ、ノーパン・ピーポだよ」だった。彼女が警視庁のマスコット「キャラクター」の絵を載せたポスターの話をしているとわかるまでに、〇・五秒かかった。さらに笑いが噴き出すまでに、また〇・五秒かかった。奇妙なことに、笑いに身をよじらせてから、ようやくぼくは何がそんなにおかしいと思ったのか分析することになった。

 ぼくは「ピーポくん」をずっと前から知っていて、日本に住む多くの外国人と同じく彼のことを変だと思っていた。この小さくてかわいらしいキャラクターは、どう見ても警察のシンボルにはふさわしくないように思えた。「ピーポくん」はもっと強そうなキャラクターであるべきではないか。犯罪との終わりなき戦いに立ち向かうべく、厳しそうで、できれば怖いくらいの顔つきをしていてもいいのではないか。

【参考記事】警察よ、ムダな抵抗はやめなさい

「ピーポくん」は、日本では組織や企業、キャンペーン、地域、商品など、ほとんどあらゆるものがかわいらしいキャラクターをシンボルにする必要性があることを示す典型的な例だ。

ニュース速報

ビジネス

ポンド急反発・ユーロ上昇、利益確定の動き=NY市場

ビジネス

米住宅価格上昇鈍化、英EU離脱や選挙で先行きリスク

ワールド

できるだけ建設的なEU離脱を、キャメロン英首相が期

ビジネス

英中銀、6カ月物オペで30.72億ポンド供給 応札

MAGAZINE

特集:BREXITの衝撃

2016-7・ 4号(6/28発売)

世界を揺るがせたイギリス国民投票のEU離脱派勝利。リーマン危機級のパニックが再びグローバル経済を襲うのか

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    もし第3次世界大戦が起こったら

  2. 2

    英キャメロン首相「EU離脱派6つのウソ」

  3. 3

    ISISが3500人のNY「市民殺害リスト」をアプリで公開

    無差別の市民を選び出し、身近な標的を殺せと支持…

  4. 4

    ハーバードが絶賛する「日本」を私たちはまだ知らない

  5. 5

    未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

  6. 6

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  7. 7

    安倍首相、消費増税再延期へ、サミットで経済状況リーマン級の危機と各国に説明

    財政出動への支持取り付けと消費増税延期への地な…

  8. 8

    Windows10の自動更新プログラム、アフリカのNGOを危険にさらす

  9. 9

    搾取されるK‐POPのアイドルたち

  10. 10

    財政赤字を本気で削減するとこうなる、弱者切り捨ての凄まじさ

  1. 1

    レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

    ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと…

  2. 2

    英国のEU離脱問題、ハッピーエンドは幻か

    欧州連合(EU)にさらに権限を委譲すべきだと答え…

  3. 3

    伊勢志摩サミットの「配偶者プログラム」はとにかく最悪

    <日本でサミットなどの国際会議が開催されるたび…

  4. 4

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月…

  5. 5

    間違い電話でわかった借金大国の悲しい現実

    ニューヨークに住み始めた僕は、まず携帯電話を手…

  6. 6

    【市場】いよいよ終わりの始まりが始まった

    いよいよ終わりの始まりが始まった。それは日銀のマ…

  7. 7

    日本で盛り上がる「反知性主義」論争への違和感

    日本で「反知性主義」という言葉が流行している…

  8. 8

    移民問題が「タブー」でなくなったわけ

    ここ数年、僕たちイギリスの国民は、一部の政治…

  9. 9

    中古ショップで見える「貧困」の真実

    時々僕は、自分が周りの人々とは違った経済的「…

  10. 10

    パックンが斬る、トランプ現象の行方【後編、パックン亡命のシナリオ】

    <【前編】はこちら> トランプ人気は否めない。…

  1. 1

    メルセデス・ベンツの長距離EV、10月に発表=ダイムラー

    ドイツの自動車大手ダイムラーは、メルセデス・…

  2. 2

    米フロリダ州の乱射で50人死亡、容疑者は警備最大手に勤務

    米フロリダ州オーランドの、同性愛者が集まるナ…

  3. 3

    英国のEU離脱派と残留派、なお拮抗=最新の世論調査

    11日に公表された世論調査によると、英国の欧…

  4. 4

    ECBのマイナス金利、銀行に恩恵=コンスタンシオ副総裁

    欧州中央銀行(ECB)のコンスタンシオ副総裁…

  5. 5

    米国株式市場は続落、原油安と世界経済懸念が重し

    米国株式市場は2日続落で取引を終えた。原油が…

  6. 6

    英国民投票、「EU離脱」選択で何が起こるか

    欧州連合(EU)は6月23日の英国民投票を控…

  7. 7

    NY市場サマリー(10日)

    <為替> 原油安や銀行株主導で世界的に株安が…

  8. 8

    英EU離脱は連合王国のリスク、元首相2人が警告

    英元首相のトニー・ブレア氏とジョン・メージャ…

  9. 9

    インタビュー:世界的な低金利、エンダウメント型投資に勝機=UBSウェルス

    UBSウェルス・マネジメントのグローバルCI…

  10. 10

    焦点:タカタ再建、「ラザード」効果で進展か 車各社との調整に期待

    欠陥エアバッグ部品の大量リコール(回収・無償…

定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
リクルート
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

モハメド・アリ、その「第三の顔」を語ろう

STORIES ARCHIVE

  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月
  • 2016年3月
  • 2016年2月
  • 2016年1月