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NASA全面協力の火星サバイバル映画『オデッセイ』

火星に取り残された宇宙飛行士の奮戦劇『オデッセイ』は科学的に驚くほど正確だ

2016年2月5日(金)15時00分
ゴゴ・リッズ

科学を武器に デイモン演じるワトニーは植物学者としての知識を総動員して水や食べ物を得る(日本公開は2月5日) ©2015 TWENTIETH CENTURY FOX FILM

 足元にはカボチャ色をした4000トンの泥が広がり、周りでは爆発音が響いたり巨大な車両が動き回ったり。頭上からはラスベガスのネオンよりずっと明るい光が照り付ける──。

 昨年の初頭、私は火星にいた。厳密に言えば、リドリー・スコット監督の映画『オデッセイ』の撮影セットを訪れていた。

 映画の時代設定は今から数十年後の未来。宇宙飛行士のマーク・ワトニー(マット・デイモン)は火星探査ミッションの最中に砂嵐に遭遇し、他のクルーたちとはぐれてしまう。ワトニーは死んだと判断したクルーらはそのまま地球に帰還。だがワトニーは生きており、火星に独り残された彼の闘いが始まる。

原作はベストセラー小説『火星の人』

 NASAとの通信手段は断たれ、次のミッションが火星に来るのは4年後。ワトニーは10カ月分しかない食料で厳しい環境を生き延びなければならない。彼は科学者としての知識を総動員して、ジャガイモの栽培や水の確保、自分の生存をNASAに伝えることにも成功した。

 原作は、元コンピュータープログラマーのアンディ・ウィアーがネットで連載し、後にベストセラー小説となった『火星の人』(邦訳・早川書房)。NASAはこの小説をいたく気に入り、「人々の宇宙への関心を再び高めるチャンスだとみていた」と、ウィアーはワイアード誌に語っている。

 1959~74年の宇宙開発競争の時代、NASAはマーキュリー計画やアポロ計画などで有人宇宙飛行に力を入れた。しかし、その後は新たな有人探査をほとんど行っていない。

「NASAは目標を見失っている。組織を立て直して宇宙探査を進めていかないといけない」と、科学やテクノロジーに関する政府機関の諮問委員会メンバーを務める環境デザイナーのブラン・フェレンは言う。「それにはビジョンと情熱が必要であり、映画がそのきっかけになってもいいじゃないか」

【参考記事】R・スコット監督のSF映画『オデッセイ』が米で首位発進、宇宙科学への関心喚起に貢献

 では、火星に取り残された男の物語が、本当に火星探査の助けになるのか。

 意外にもウィアーは救世主だった。『火星の人』は基本的に、369ページに及ぶ火星サバイバル術だ。ウィアーはこの本のことを「専門家のための専門書」と表現している。ほとんどのリサーチはグーグルでしたとウィアーは言っているが、本に描かれている科学の知識がこれほど正確なのは驚きだ。

 宇宙を描いた秀逸な映画は「正しい感性」によって大衆の想像力を膨らませると、フェレンは言う。彼が触発された最初の作品は、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(68年)。多くの宇宙飛行士や科学者たちが、自分のキャリアのきっかけをつくった映画として挙げる作品だ。

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