最新記事

事故

フェリー沈没事故を韓国はなぜ「恥」と感じるか

2014年5月13日(火)14時49分
ジェフリー・ケイン

■急速な経済成長にも原因

 欧米では、このように悲劇的な事故と国家威信、恥、自尊心とを結び付けて内省するといった反応は起きないだろう。欧米で惨事が起きた後に続くのは、過失への非難と犠牲者への哀悼、そして安全性や対応策の改善だ。

 12年にイタリアで起きた大型客船座礁事件では、乗客を見捨てた船長が過失致死容疑ですぐに逮捕された。05年にハリケーン「カトリーナ」が襲来したアメリカでは、政府の救援の遅れが批判されたが、国民性うんぬんが語られることはなかった。

 だが韓国では人災はそれ以上の意味を持つ傾向にある。貧困国からあっという間に豊かなハイテク国家に成長したプライドがあるにもかかわらず、今にも失態を演じるのではないか、まだ力不足なのではという不安が国民の心に刷り込まれている。

 急速な成長にも原因があるのかもしれない。アジアの他の新興国と同じく、建物や車は質や安全性を犠牲にしてでも急ピッチで造られ、その過程で安全がおろそかにされた面もある。

 94年にソウル聖水大橋の中央部が崩落して30人以上が犠牲になった事故や、ソウルの三豊百貨店が95年に突然崩壊し500人以上が死亡した事故も、その
結果だったかもしれない。

 韓国は急成長によって大事故が起きやすい国になり、そのまま90年代に先進国の仲間入りをした。韓国人の中には、分不相応と感じた人もいる。

 今はそろそろ胸を張っていい頃なのに、自国を誇る気持ちに確たる自信がないのは相変わらず。米タフツ大学で朝鮮半島を専門とするイ・スンヨン助教はこう言う。「韓国は自分たちが世界の目にどう映っているかを気にし過ぎだ」

From GlobalPost.com特約

[2014年4月29日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、半導体売り続く 一時30

ビジネス

海外勢の米国債保有、2月は過去最高更新 日本の保有

ビジネス

米インフレ抑制、停滞の可能性=ボウマンFRB理事

ビジネス

G7財務相、イラン制裁やロシア凍結資産の活用で協力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像・動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 10

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中