最新記事

オーストラリア

「年金は70歳から」の英断

人口構成の変化で、年金財政はどこの国でも今のままではもたない

2014年5月30日(金)12時40分
ウィリアム・サレタン

働くしかない 夢に見た悠々自適の引退生活は過去の話か BSIP-Universal Images Group/Getty Images

 多くの先進国の参考になりそうなアイデアが聞こえてきた。オーストラリア政府が今月、年金支給開始年齢を70歳に引き上げる方針を示したのだ。

 年金支給年齢の引き上げは、かねてから人口統計学の専門家や政策通の間で検討されてきた。今のままでは、多くの国で個人が年金を支払う期間より受け取る期間が長くなってしまう。破綻を避けるには支給開始年齢を遅らせるのが理にかなっている。

 それだけではない。まず、介護を必要としないで健康に生活ができる「健康寿命」が延びていることで(高齢者医療などの)費用負担が抑えられている。それに、自分で自分の面倒が見られるうちは自立するのが本来の姿だ。

 オーストラリア国民の平均寿命は年金制度が始まった1908年には50歳台だったが、今や82歳を超えている。支給開始が現在の65歳では制度が持たない。
一方で強力な反対論もある。肉体労働者はホワイトカラーより貧しく、肉体が衰えれば働けなくなる。また労働市場には年齢差別があり、年配の労働者は排除されて雇用保険に頼ることになる。

 そこで政府は雇用奨励策として、50歳以上で雇用保険か障害者年金の受給者を雇用する企業には2年間にわたって1万豪ドルを支払うと説明している。

「多くの人がいつか転職する」と、アボット首相は言う。「60代後半でも再教育や再訓練をすれば雇用機会は豊富にある」

 なかなか健全な案だ。第1に、年金制度は持続可能でなければならない。未来の世代への借金は永遠には続かない。

 第2に、年金をもらわずに働ける人はそうするべきだろう。第3に、年配者の雇用問題は既に発生している。彼らにまともな職を提供して、失業を回避すべきだ。

 ホッキー財務相は「風土改革に着手すべき」と提言した。左派勢力は「国民に先進国の誰より長く働けというのか」と怒っている。だがオーストラリアこそ先進的なのだ。その他の国々も、見習うべきだろう。

© 2014, Slate

[2014年5月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中