最新記事

セックス

イタリアを売春宿に変えた男

懲りないベルルスコーニの下品な振る舞いにイタリア女性の怒りがついに爆発した

2011年11月10日(木)15時27分
バービー・ナドー(ローマ)

文化の一部? 首相の「ブンガブンガ」と呼ばれる悪名高いセックスパーティーは有名(写真はローマの売春婦) Reuters

「イタリア人がドイツ人に、美女を口説くテクニックを伝授するというジョークを知っているかな?」。ある大学の卒業式で、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相(74)が学生に問い掛けた。彼はそこで言葉を切り、ウインクしてから、オーラルセックスに絡んだ下世話なオチを披露した。

 しかし見事にスベって会場は静まり返った。「ソフトなバージョン過ぎたかな」と、ベルルスコーニは言葉を継いだ。「本物はもっと面白いぞ。君らが想像できないくらいに」

 その数分後、成績優秀者の表彰式で登壇した2人の金髪美女に、首相はにやにやと語り掛けた。「おめでとう。君たち2人は最高だ。ブンガブンガ(彼の悪名高いセックスパーティーのこと)に招待しよう」

 2人の笑顔が凍り付いた。

 ベルルスコーニの下品な冗談は毎度のこと。しかしイタリア女性はもう笑わない。収賄疑惑を受け流し、セックスパーティーをやめそうにない首相に女性は怒り、失望している。

 2月には、彼の下品な言動に抗議して100万人近くがデモを行った。以来、怒りの声は高まるばかりだ。彼を非難する社説やコラムがあちこちで目に付き、「セックス・ストライキ」も呼び掛けられている。

 職場での男女差別をなくし、女性を高い地位に登用するための法改正を進める動きもある。雑誌「A」の編集長マリア・ラテッラは言う。「ついに激しい怒りの炎が広がり始めた」

 それは世論調査からも分かる。ベルルスコーニ支持の女性は、1年前の48%から27%に急落。これまでになく低い数字だ。

 それでもベルルスコーニはひるまない。「最新の調査結果を知っているかね?」というのが新しいジョークだ。「20歳から30歳までの女性に、ベルルスコーニとやりたいかと聞いた。答は33%がイエス、67%が『もう一度?』だった」

ペニスとハサミで抗議

   女性団体アルチドンナは3月、25年にわたりイタリア女性を侮辱したとしてベルルスコーニを告訴。「未成年者買春で堪忍袋の緒が切れた」と、バレリア・アヨバラシット会長は言う。

 ベルルスコーニは先頃、セックスパーティーに参加したモロッコ出身のダンサー、ルビー(当時17歳)に約6万5000ドルを渡した事実を認めた。

 しかし本人によれば、ルビーが脱毛器を買って美容サロンをオープンできるよう援助しただけだとか。「売春から抜け出させるために支払ったんだ」

「またもやベルルスコーニは、重大な事柄を笑いでごまかそうとしている」と非難するのは、最大野党・民主党のアンナ・フィノキアーロだ。「女の尊厳は売り買いできる商品とは違う」

 70年代にはイタリア女性も、アメリカ女性と同じようにブラジャーを焼いて権利拡大を訴えた。しかし、その後の歳月で勢いは失われ、「女性は退歩し始めている。まるで眠ってしまったみたい」と、エマ・ボニーノ上院副議長は言う。しかしベルルスコーニが女たちを目覚めさせた。「彼女たちは今度こそ状況を変えようと思っている」

 ローマで行われたデモでは、「わが国は売春宿ではない」「女性に尊厳を返せ」というスローガンが掲げられた。ポポロ広場に集まった10万人以上の人々の頭上には、たるんだペニスとそれを挟むハサミの巨大なバルーンが浮かんでいた。同じ日に、イタリア各地で200を上回るデモが行われたという。

「天才は男にしかいないと言い放ったのはムソリーニだけれど」と、イタリア女優のモニカ・ベルッチは言う。「そうした固定観念が私たちの社会にあったのは事実。そんなメンタリティーから脱却するにはかなりの時間がかかる」

 法学校を中退してモデルになったベルッチは、テレビ番組に花を添えるセクシータレントの道を歩む代わりに、パリへ出て本格的な映画女優としてのキャリアを築いた。「イタリアの女性は、これからいろんなことを学ばなければいけない」とベルッチは言う。「でも一番大事なのは自信を持つこと。イタリア女性は美しくてセクシーだけど、それが自分の全財産ではないことに気付いてほしい」

 タレントから政治家に転身したマーラ・カルファーニャ機会均等政策担当相は、「独立した性差別監視機関」の設立を唱えている。男性誌マキシムで「最高にホットな政治家」の1人に選ばれたこともある彼女は、CMや広告で女性を露骨に性的対象として扱わないという合意書を大手企業20社と交わし、同じ趣旨の法案成立も目指している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中