最新記事

インド

現代版ガンジーは汚職大国を変えるか

Gandhi's Successor

建国の父にならって白い民族衣装に身を包み清貧に徹するハザレは、ハンストで政府と戦う反汚職のシンボル

2011年9月27日(火)15時38分
山田敏弘(本誌記者)

 インドに「21世紀のマハトマ・ガンジー」と呼ばれる人物が現れた。社会活動家アンナ・ハザレだ。彼の敵は汚職にまみれた金持ち政治家や役人。その一挙手一投足と死のハンストの行方にインド中の注目が集まり、地元メディアはインド版「アラブの春」とも報じている。

 ハザレは今月16日から、汚職撲滅に向けた要求が満たされるまで無期限のハンガーストライキを計画。実行直前に逮捕されたが、拘置所内でハンストを始め、それをきっかけにハザレの支持者が中心となってインド各地でデモが拡大。ツイッターなどのSNSを使って、首都ニューデリーでは少なくとも1万5000人がデモに加わった。

 経済成長を謳歌しているようにみられているインドだが、国民の間では進まない経済改革や物価高騰に加えて、汚職への不満がくすぶっている。

 イギリスから独立した後のインド政治は、ガンジーらの高潔さをしばらく受け継いでいたが、計画経済の厳しい許認可が原因で腐敗が蔓延。90年代の規制緩和でも汚職は減らなかった。

 特にこの1年間は立て続けにスキャンダルが浮上。ムンバイの退役軍人用住宅が一部政治家に不当に提供されていた問題や、昨年秋のコモンウェルス・ゲームズ(英連邦競技大会)の予算の多くを与党政治家がかすめ取っていたことが発覚した。

国会議員の大半が大富豪

 そんな腐敗だらけのインドで、なぜ74歳のハザレが変革のうねりを生み出すことになったのか。もともと軍人だった彼は、退役後に故郷であるマハラシュトラ州の村の再建に着手。食料や水が不足しアルコール依存症患者が蔓延していた村を10年間をかけて「環境に優しい村」に変えた。建国の父であるガンジーに倣って白い帽子と白の民族衣装クルタに身を包むハザレは、銀行預金も財産もない質素な生活を送っている。

 その名前が全国的に知られるようになったのは今年4月。汚職事件が相次ぐなか、ハザレはニューデリーで反汚職のハンストを始め、その様子は24時間ネットで報じられ、デモがインド各地に拡大。ハザレは一躍、反汚職のシンボル的存在になった。

 混乱がさらに広がるのを懸念した政府は、ハザレのハンスト中止と引き換えに、インド史上初めて閣僚や官僚の汚職を調査するオンブズマン制度の導入を認めた。ただ今月提出された法案が首相と司法幹部には捜査権限が及ばないという骨抜きの内容だったため、ハザレは再びハンストで抗議することを決めた。

 与党・国民会議派の対応が後手後手に回っている原因の1つは、総裁のソニア・ガンジーが現在、病気療養中で不在なことにある。このため党の方針決定がうまくいかず、若い世代によるデモに、年配者が牛耳る与党が対応できていないと指摘する声もある。

 結局、状況の深刻化を恐れた当局は、いったん逮捕したハザレをすぐに釈放。今月18日から2週間の期間限定でハンスト実施を許可した。ただ騒動はまだ収まる気配を見せていない。

 インドの市民団体「民主改革協会」による調査によれば、現職の国会議員の540人のうち300人が「大富豪」に当たる。議員が賄賂などで私腹を肥やした結果だとも指摘されており、汚職根絶にはまだ時間がかかる。

 民主主義国家を自負し、12億の人口を抱え、アジア第3の経済国家に成長したインドだが、世界の大国の仲間入りをするためには汚職撲滅が不可欠だ。現代版ガンジーの非暴力運動は、知られざる腐敗大国インドを生まれ変わらせることができるのだろうか。

[2011年8月31日号掲載]

ニュース速報

ビジネス

ポンド急反発・ユーロ上昇、利益確定の動き=NY市場

ビジネス

米住宅価格上昇鈍化、英EU離脱や選挙で先行きリスク

ワールド

できるだけ建設的なEU離脱を、キャメロン英首相が期

ビジネス

英中銀、6カ月物オペで30.72億ポンド供給 応札

MAGAZINE

特集:BREXITの衝撃

2016-7・ 4号(6/28発売)

世界を揺るがせたイギリス国民投票のEU離脱派勝利。リーマン危機級のパニックが再びグローバル経済を襲うのか

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    もし第3次世界大戦が起こったら

  2. 2

    英キャメロン首相「EU離脱派6つのウソ」

  3. 3

    ISISが3500人のNY「市民殺害リスト」をアプリで公開

    無差別の市民を選び出し、身近な標的を殺せと支持…

  4. 4

    ハーバードが絶賛する「日本」を私たちはまだ知らない

  5. 5

    未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

  6. 6

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  7. 7

    安倍首相、消費増税再延期へ、サミットで経済状況リーマン級の危機と各国に説明

    財政出動への支持取り付けと消費増税延期への地な…

  8. 8

    Windows10の自動更新プログラム、アフリカのNGOを危険にさらす

  9. 9

    搾取されるK‐POPのアイドルたち

  10. 10

    財政赤字を本気で削減するとこうなる、弱者切り捨ての凄まじさ

  1. 1

    レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

    ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと…

  2. 2

    英国のEU離脱問題、ハッピーエンドは幻か

    欧州連合(EU)にさらに権限を委譲すべきだと答え…

  3. 3

    伊勢志摩サミットの「配偶者プログラム」はとにかく最悪

    <日本でサミットなどの国際会議が開催されるたび…

  4. 4

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月…

  5. 5

    間違い電話でわかった借金大国の悲しい現実

    ニューヨークに住み始めた僕は、まず携帯電話を手…

  6. 6

    【市場】いよいよ終わりの始まりが始まった

    いよいよ終わりの始まりが始まった。それは日銀のマ…

  7. 7

    日本で盛り上がる「反知性主義」論争への違和感

    日本で「反知性主義」という言葉が流行している…

  8. 8

    移民問題が「タブー」でなくなったわけ

    ここ数年、僕たちイギリスの国民は、一部の政治…

  9. 9

    中古ショップで見える「貧困」の真実

    時々僕は、自分が周りの人々とは違った経済的「…

  10. 10

    パックンが斬る、トランプ現象の行方【後編、パックン亡命のシナリオ】

    <【前編】はこちら> トランプ人気は否めない。…

  1. 1

    メルセデス・ベンツの長距離EV、10月に発表=ダイムラー

    ドイツの自動車大手ダイムラーは、メルセデス・…

  2. 2

    米フロリダ州の乱射で50人死亡、容疑者は警備最大手に勤務

    米フロリダ州オーランドの、同性愛者が集まるナ…

  3. 3

    英国のEU離脱派と残留派、なお拮抗=最新の世論調査

    11日に公表された世論調査によると、英国の欧…

  4. 4

    ECBのマイナス金利、銀行に恩恵=コンスタンシオ副総裁

    欧州中央銀行(ECB)のコンスタンシオ副総裁…

  5. 5

    米国株式市場は続落、原油安と世界経済懸念が重し

    米国株式市場は2日続落で取引を終えた。原油が…

  6. 6

    英国民投票、「EU離脱」選択で何が起こるか

    欧州連合(EU)は6月23日の英国民投票を控…

  7. 7

    NY市場サマリー(10日)

    <為替> 原油安や銀行株主導で世界的に株安が…

  8. 8

    英EU離脱は連合王国のリスク、元首相2人が警告

    英元首相のトニー・ブレア氏とジョン・メージャ…

  9. 9

    インタビュー:世界的な低金利、エンダウメント型投資に勝機=UBSウェルス

    UBSウェルス・マネジメントのグローバルCI…

  10. 10

    焦点:タカタ再建、「ラザード」効果で進展か 車各社との調整に期待

    欠陥エアバッグ部品の大量リコール(回収・無償…

定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
リクルート
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

モハメド・アリ、その「第三の顔」を語ろう

STORIES ARCHIVE

  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月
  • 2016年3月
  • 2016年2月
  • 2016年1月