最新記事

アフリカ

ソマリア飢饉、支援を拒む過激派の正体

過去60年間で最悪の飢饉にあえぐ市民の姿を尻目に、国際社会からの支援をはねつける過激派組織アルシャバブのあきれた実態

2011年8月1日(月)18時59分
アンドルー・メルドラム

待ったなし アルシャバブの支配地域では200万人以上が今も食糧支援を受けられずにいる(首都モガディシオ、7月28日) Omar Faruk-Reuters

 干ばつや内戦の影響で数百万人が飢えに苦しむマリアの食糧危機は、一刻の猶予も許されないほど深刻な事態に至っている。しかし、国際社会からの支援はなかなか現地に届かない。最大の障害は、国際テロ組織アルカイダとつながりがあるソマリアのイスラム過激派組織「アルシャバブ」だ。

 国連は7月20日、ソマリア南部の2地域で飢饉の発生を宣言し、国連世界食糧計画(WFP)などの支援団体が大量の支援物資をソマリアに送りこんでいる。しかし両地域を支配下に置くアルシャバブが、物資の輸送を阻止。以前から国際支援団体を攻撃し続けている彼らは、食糧や医薬品を燃やし、支援スタッフを殺害するなど暴挙を繰り返している。

 国連とアメリカは、飢饉を一段と深刻化させるアルシャバブの対応を非難している。ロイター通信によれば、国連の報告書にはこう書かれている。「ソマリアへの人道支援を阻む唯一にして最大の障害は、アルシャバブを中心とした反政府武装勢力による輸送経路の遮断だ」

 この報告書によれば、国連の関係機関から資金援助を受けて支援活動にあたっている複数のソマリア国内の団体が、アルシャバブに「税金」を支払っている可能性があるという。アルシャバブは支配地域における国連や支援団体の活動を容認する代償として、賄賂も要求していた。金が支払われないと、食糧の在庫や医薬品を燃やしたこともある。

黒幕は組織内の外国人メンバー

 アルシャバブは2010年以降、支配地域内における外国の支援団体の活動を禁じていたが、今年7月に入ってその措置を取り下げた。とはいえ、WFPをはじめとする大手支援団体に対しては、今後も活動を認めないという。

 政治アナリストらは、飢饉宣言によってアルシャバブは難しい立場に追い込まれたと指摘する。食糧支援を受け入れなければ市民の不満が爆発する恐れがあるからだ。しかしアルシャバブ内の強硬派にとっては、欧米の組織が自分たちの支配地域で食料を配布する事態は受け入れがたい。
   
 WFPによれば、アルシャバブの支配地域で飢えに苦しみながら、支援を受けられずにいるソマリア市民は200万人以上。WFPは今後も支援が必要な地域へのアクセス確保に努めると同時に、最後の手段として空中からの物資投下も検討している。

 前述の報告書によれば、アルシャバブが欧米諸国やキリスト教と関係する慈善団体にとりわけ強い敵意を抱いているのは、組織内に入り込んだ外国人メンバーからの影響が大きいという。「アルシャバブ指導層が外国人メンバーから悪影響を受けているのは明らかだ」と、報告書には記されている。情報筋によれば、アルシャバブには外国からの聖戦士も数百人参加しているらしい。

 アルシャバブは支援団体に対して、支配地域への「立ち入り料」として1万ドルを支払うよう求めている。さらに、「登録料」として1万ドル、「更新料」として半年ごとに6000ドルを要求。そのうえ、支配地域に運び込む支援物資の価格の20%相当、すべての車両に10%の税金を課している。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中