最新記事

軍事

増強する中国軍のステルスな実力

中国軍の脅威は見せ掛けか、本物か——その真の力をアメリカは読み違えている。急速な軍備強化は包括的な戦略の一部にすぎない

2011年2月14日(月)12時51分
ジョナサン・アダムズ

大きな誤算 対艦ミサイルや次世代ステルス機の開発など、中国軍の軍備増強のペースはアメリカの予想を大きく上回っていた David Gray-Reuters

 中国が世界に「力こぶ」を見せつけている。昨年末にアメリカの空母を標的にでき、米軍の戦術的優位を揺るがす対艦弾道ミサイル「東風21D」が配備目前と報じられ、1月初めにはレーダーに捕捉されにくいステルス戦闘機「殲20」の試作機の写真がネットに出回った。

 人民解放軍の脅威は見せ掛けだけなのか、本物なのか──アメリカの安全保障関係者の間では論争が起きている。台湾から状況を見守ってきた軍事アナリストは、一連の噂によって、アメリカの軍事戦略を撹乱するという中国の主たる目標は達成されたと言う。

「ワシントンの戦略立案者に対しては、心理的に極めて有効な抑止力になった」と、かつて台湾国防部の副部長(副国防相)を務めた林中ビン(リン・チョンビン)淡江大学国際情勢・戦略研究所教授は言う。「中国は今後何もする必要がない。(最新鋭兵器開発の)発表は、既に台湾海峡周辺のアメリカの戦略を大混乱させている」

 もちろん全面的な戦争に突入したとき、中国がアメリカを倒せると考える人間はいない。アメリカは国防支出でも戦争の経験や技術でも、中国のずっと上に位置する。世界で唯一の超大国アメリカと「超新興国」の中国が衝突しても、力の差は歴然としているはずだ。

 だが林らアジア軍事専門家は、中国の急速な軍備増強によって、アメリカは軍事力の要の1つである空母打撃群の弱点を露呈したと指摘する。

 今後東アジアでいざこざが発生した場合、中国はアメリカの空母打撃群を寄せ付けないか、到着を遅らせるだけの軍事力を既に獲得した。このためアメリカの軍事戦略立案者は、中台の緊張が再燃した場合の対応を迫られている。

西太平洋に築く「万里の長城」

 対艦弾道ミサイルだけではない。中国は07年に気象衛星をミサイルで破壊して、衛星攻撃能力があることを世界に知らしめた。中国が誇るアジア最大の潜水艦隊は今も拡大しており、再生中の旧ソ連製中型空母の運用開始がささやかれている。

 そこに次世代ステルス戦闘機の配備が現実的になってきたことで、警戒感は高まっている。「中国は西太平洋に新たな『万里の長城』を築きつつある。それなのにオバマ政権は防衛上の対応をほとんど何もしていない」と、国際評価戦略センターのアジア軍事専門家リチャード・フィッシャーは指摘する。

 中国の軍拡を重大な脅威と見なさない専門家もいる。対艦弾道ミサイルはまだ技術的な課題があるし、命中精度のカギとなる軍事衛星を攻撃するなど対抗手段はあるというのだ。

 しかし基本的な流れとしては、「東アジアでも宇宙でも(アメリカが)優位を維持するのは難しい」と、林は言う。重要なのは新型兵器の実戦力ではなく、中国の軍備増強がアメリカの戦略的心理に影響を与えるかどうか。その意味では、答えは既に「イエス」と出ている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ前米大統領、麻生自民副総裁と会談=関係者

ワールド

北朝鮮「圧倒的な軍事力構築継続へ」、金与正氏が米韓

ビジネス

中国人民銀、国債売買を政策手段に利用も=高官

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中