最新記事

ヨーロッパ

仏ストライキ、なぜここまでやるの

フランスでは日常茶飯事のストライキや抗議デモが、今回はいつもにも増して深刻になっている4つの理由

2010年10月22日(金)17時59分
ベン・バルニエ

デモには大勢の若者も参加している(10月16日、ニース) Eric Gaillard-Reuters

 ストライキといえば、ワインやチーズと並ぶフランスの名物。フランス革命の時代から、こうした抗議活動は不満を訴える民衆の特権であり続けてきた。しかし、いまフランスで巻き起こっているストには、伝統的な抗議活動とは少し違う面もある。今回のストやデモが、従来のものより深刻になっている理由を4つ挙げてみよう。

1.明確な動機がある

 通常のストは明確な動機がなかったり、限られた人しか共感できない場合も珍しくない。昨年秋にはパリで、ニコラ・サルコジ大統領の右派寄りの政策や高い失業率への不満を訴える抗議活動が行われたが、デモ行進では具体的な要望は掲げられなかった。

 しかし今回は、年金改革のために退職年齢を現在の60歳から62歳に引き上げるという政策への抗議という明確な目的がある。法案はすでに下院で承認され、上院での採択を待っている状態だ。

2.規模の大きさと暴力の横行

 今回は全国で連日300万人以上が参加するほど規模が拡大している。製油所の閉鎖による燃料不足や交通機関の運休は国内経済にも悪影響を及ぼし、警官隊とデモ隊の衝突も多発している。暴力行為による逮捕者はすでに1000人以上に達した。

3.既得権益にしがみつく労働者

 なぜフランス人は、ほかの欧州諸国ですでに実施されている労働年数の延長を受け入れられないのだろうか。退職年齢の引き上げはイギリスやドイツなどでも行われているが、フランスのようなストは起きなかった。

 あるデモ参加者は、年金生活は懸命に働いてきた労働者に与えられるべき正当な見返りだと言う。「私たちは年金を受け取るに値する働きをしてきた。そして、若い世代にも同じ見返りがあるよう望んでいる」

 高校生など若者の参加者が多いのも今回のデモの特徴だ。退職年齢が伸びれば雇用の空きも減る。25歳以下の国民の失業率が25%に迫る現状では、高校生にとっても無関係の問題ではない。

4.サルコジへの失望が原動力

 今回のストやデモは、右派寄りの政策を推し進めるサルコジを確実に追い詰めている。ある調査では、年金改革に反対する人々の声に耳を傾けようとしないサルコジの姿勢に65%の回答者が不支持を表明した。

 与党は両院で過半数を占めているので、法案が否決されるとは考えにくい。しかし抗議活動が全国に広がっている背景には、サルコジへの不信感がある。労働者や中流層を助けるという約束を守っていないと国民に思われているのだ。こうした状況を見る限り、2012年の大統領選でサルコジが再選を果たす可能性は低そうだ。

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのガザ支援措置、国連事務総長「効果ないか

ワールド

記録的豪雨のUAEドバイ、道路冠水で大渋滞 フライ

ワールド

インド下院総選挙の投票開始 モディ首相が3期目入り

ビジネス

ソニーとアポロ、米パラマウント共同買収へ協議=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中