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ブラジルクレジット17回払いでお願いします
現金がなくても欲しいものがすぐ手に入る──新興中流層がはまるクレジットカードの甘い罠
悪魔のささやき 靴店シュービズの店内では「10回払いで金利ゼロ」の広告が目を引く Juan Sebastian Tello—GlobalPost
ブラジルだけは世界的な信用危機もどこ吹く風のようだ。この国では貧しい人でも、液晶テレビやステレオやカプチーノメーカーをクレジットカードで買える。
クレジットカードは限度額が大きい上、ただ同然で誰でも使える。カードの種類に関係なく分割払いの回数は無制限。17回払いも可能で、しかも金利はかからない。
決して目新しい方法ではないが、ブラジルでは過去2年間、低いインフレ率と好景気を背景に、お金のない人がこれまでになく大胆になっている。「低所得の消費者はついに自分たちの番が来たと思っている」と、研究教育機関ジェトゥリオ・バルガス財団のエコノミスト、マルセロ・ネリは言う。「ブラジル人は今、長年の買い控えの埋め合わせをしている」
ブラジル人は借金をして、より良い未来を手に入れようとしている。現在のインフレ率は4・5%前後。93年に2500%の記録的インフレを経験した彼らからみれば、低い水準だ。
金融機関が小売店への支払いを保証し、消費者が支払えない場合はすべてのリスクを負うが、期限までに返済できないと金利が発生する(しかも、ブラジルの金利は世界で最も高い部類に入る)。分割払いの場合、店側が値段をつり上げがちなことも、消費者は承知の上だ。
そんな消費者を逃すまいと、売る側は支払い期間をできるだけ延ばしたがる。ブラジル中央銀行によれば今年4月、クレジットカードなどローンを利用した購入額は総額2670億ドルに上り、1年間で18・2%の伸びを示した。
家電製品と家具小売りチェーンのカサス・バイアは、分割払いを10回から17回もしくはそれ以上に延長したという。マリア・ダ・コンセイソン(58)は13年前からこの店の常連だ。「家政婦の仕事をして月収は600ドルくらい。即金だとベッドも買えない」。彼女はそう言って、フードミキサー2台とDVDプレーヤーを10回払いで購入した。
「高嶺の花」に手が届く
ブラジルでは低所得層のほとんどが、1年中ローンを返済している。普通なら手の届かないものが買えるのは、ローンのおかげだ。「10回以上の分割払いのほうが慣れているし、より多く買える」と、買い物に来ていたロナルド・ロドリゲス(57)は言う。「家じゅうカサス・バイアで買ったものだらけ。冷蔵庫も電子レンジも洗濯機もそうだ」
返済率は悪くない。調査会社セラサ・エクスペリアンによれば、1〜3月のデフォルト(債務不履行)率は09年同期比で6・7%減と、00年5月以降最大の減少となった(年ごとの増減のみ公表)。
ブラジル最大の都市サンパウロの繁華街にある靴店シュービズ。「10回払いで金利ゼロ」という広告が目を引く店内で、美容師のニルマ・ロペス・デ・サントスは10回払いで娘たちの靴を買おうとしていた。「いつもクレジットカード払い。現金で娘に靴を買う余裕はない」と、ロペスは言う。
家電販売チェーンのポントフリオでは、販売員が商品の価格を告げる前に分割払いを売り込んでいる。店長によれば、「顧客の90%が分割払いで買う。500ドルの商品を即金では買えないからだ」。
こうした傾向に専門家は警鐘を鳴らす。「消費者は目を覚ますべきだ。店側は分割払いを隠れみのに値段をつり上げている」とブラジルのエコノミスト、ジョゼ・デュトラ・オリベイラ・ソブリニョは言う。「知っていれば、客は現金で安く買おうとするはずだ」
しかし、多くのブラジル人には無理な話だ。経済が好調でも、ブラジルの新興中流層の月収は600〜2600ドル。300ドルの冷蔵庫は高嶺の花だ。「分割払いで高い値段を吹っ掛けられているのは分かっている。でも即金では何も買えないし、どうしてもワールドカップが見たいの」と、カサス・バイアでテレビを品定めしていた女性は言った。
(GlobalPost.com特約)
[2010年8月25日号掲載]