最新記事

テロ

アルカイダ情報「宝の山」を発見?

パキスタンからイエメンに向かったアルカイダ工作員がオマーンで拘束された。彼は「300件の重要な電話番号」を持っていたという

2010年2月15日(月)16時47分
マイケル・イジコフ、マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

親玉 航空機爆破未遂事件にビンラディンが関与か(写真はFBIがスペインの政治家の顔写真を無断で使って合成したもの) U.S. State Department-Reuters

 パキスタン北西部に潜伏する国際テロ組織アルカイダの指導部と、活動を活発化させているイエメンのアルカイダ組織。両者の関係を示す電話番号や写真、文書など「宝の山」と思われるものを米政府の情報当局が探し当てたようだ。

 1月後半、パキスタンからイエメンに向かうアルカイダ工作員がペルシャ湾岸国オマーンで身柄を拘束されたと、米テロ対策当局者が本誌に明かした。

 この件は公式発表されていない。しかし拘束された工作員が重要人物であることを示すかのように、その数日後、「ファルージャ・イスラムフォーラム」というジハード(聖戦)関連ウェブサイトに、アルカイダの指導者が不安を感じて「指揮官たち」に警戒を強めるよう指示した、と示唆する書き込みがあった(発信者はアルカイダの「兄弟」)。

 書き込みによれば「捕まった兄弟」----アブドゥラ・サレー・アル・エイダン(通称バルード)という「前線指揮官」とされる----は、「アフガニスタンからの帰還途中」でサウジアラビア当局に引き渡された。

 注目すべきなのは、エイダンはアフガニスタンから持ち帰った写真や名前、文書などに加えて300件に上る「重要な電話番号」を持っていたと、この書き込みが伝えていること。「兄弟は、資料が押収されたことをイエメンとアフガニスタンの指揮官に直ちに連絡するよう求めた」という。「彼は指揮官に対し、住居と携帯電話番号をすぐに変えることも求めている」

 エイダンが持っていた電話番号が「300件」といった数字が正しいかどうかは確認できない。しかしエイダンはイエメンに向かったアルカイダの密使であり、今回の拘束でアルカイダの作戦に関する「有益な」情報が得られると、前述のテロ対策当局者は話す。この当局者は、エイダンがどのようにしてオマーンで拘束されたかについての詳細は明かさなかった。

ビンラディンとイエメンを結ぶ証拠か

 現時点で、エイダンの拘束にどれだけの意味があるのか評価することは困難だ。米政府機関に分析を提供し、今回の書き込みを最初に見つけたテロ対策専門家のエバン・コールマンは「こうした取り押さえはそうあるものではない」と本誌に語る。「アルカイダの戦闘員に関するそれだけ広範囲の個人情報を持っていたとしたら、相当な収穫だ」

 さらにエイダンの拘束は、アルカイダの中央指導部と「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」と呼ばれるイエメンの下部組織の結びつきが、米当局者が考えるよりもはるかに強い可能性を示している。

 今年1月、バラク・オバマ米大統領のテロ対策顧問ジョン・ブレナンは、昨年12月25日のノースウエスト航空機爆破未遂事件で最も「衝撃的で驚いたこと」は何かと記者会見で問われ、こう答えた。「(犯行声明を出した)『アラビア半島のアルカイダ』がだいたいどこに向かうか戦略的な実感はあった。しかし、実際にアメリカ本土に人員を送りこむところまで行っているとは思わなかった」

 その数週間後、ウサマ・ビンラディンは「ウサマからオバマへ」という音声メッセージを出して爆破未遂事件を賞賛し、容疑者ウマル・ファルーク・アブドゥルムタラブを「英雄」と称えた。米政府の安全保障関係者らはそのとき、ビンラディンが爆破未遂の指令に自分が関わったと述べていないことに注目した。

 しかしエイダンの拘束と彼が所持していた文書は、アフガニスタンとイエメンのアルカイダ指揮官の間に明らかに情報のやり取りがあったことを示している。とするとビンラディンやアルカイダ幹部は爆破未遂事件に関して、これまで考えられている以上に多くの情報を事前に把握していたのではないか。少なくともそうした疑いは出てくるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-メルセデス、中国パートナーとの提携に投資継続

ビジネス

ホンダ、カナダにEV生産拠点 電池や部材工場含め総

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中