最新記事

紛争

25カ国に迫る内戦勃発の危機

不完全な民主化や隣国からの「飛び火」で危ないネパール、コンゴ、ブルンジ……

2009年10月6日(火)15時41分
ケイティ・ベーカー

政情不安 民主化が始まったばかりの国では内戦が再燃する恐れも(コンゴの政府軍兵士、08年11月) Reuters

 世界的に見て戦争は減少傾向にあると言われるが、状況は必ずしも楽観視できない──米メリーランド大学国際開発・紛争管理センターが、こんな警告を発している。

 同センターは2004年、冷戦後の武力紛争の数が20にまで減ったという報告書を発表した。だがこのほど発表された10年版の報告書によると、紛争数は05年に27に急増した後は安定しているものの、将来に向けて極めて不安な兆候が見られるという。

 いま世界で起きている26の武力紛争はすべて、以前から続く内戦か、一旦は鎮まった内戦の再燃だ。さらに近い将来、内戦などの紛争が勃発する可能性が最も高いとされる25カ国の状況は、この2年間で深刻の度を増している。

 紛争が増加している大きな理由は、不完全な民主化だ。どの国も民主制に移行してしばらくの間は、政情が極めて不安定になる。ケニアでも07年末の大統領選挙をきっかけに民族間の流血の争いが起きた。報告書は同様の事態が最も懸念される新生民主国家として、コンゴ(旧ザイール)やブルンジ、ネパールなどを挙げている。

 既に紛争が起きている隣国の存在も問題だ。ブルンジの危険度が増しているのは、隣のコンゴが内戦状態にあるからだ。

最も危険度が高いアフガニスタン

 同センターによれば、紛争を回避するための方法の1つは、たとえ民主化が不完全であっても、別の面でその国が安定した成長を遂げることができるように支援することだという。

 イラクを例に取ろう。確かに民主国家としては未熟だが、経済の開放度や乳幼児死亡率といった「リスク要因」を大幅に減らしたことが、紛争発生の危険度の劇的な低下をもたらした。

 一方で、依然として最も危険度が高いのはアフガニスタンだ。民主化が国民の生活改善にまったく役に立っておらず、戦争の長期化を招いてしまっている。

 もう1つの処方箋は、紛争終結後の国々の安定化を助けるために国際社会がより一層の努力をすること。例えばセルビアの場合、バルカン半島諸国をEUに迎え入れる努力が武力紛争発生の危険性を減少させた。

 新たな内戦も、新たな国家間の戦争も発生していない今こそ、国際社会は緊急に紛争後の国々の緊張を解くために取り組まなければならない。武力紛争をしているのは破綻しかけの国家だけという傾向はますます強まっている。

[2009年10月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中