最新記事

戦争司令官

不倫CIA長官の真のスキャンダル

それでも英雄視されるペトレアスだがアフガニスタンの実績こそ責められるべき

2012年12月7日(金)15時15分
ジェイミー・リノ

戦争にも失敗 ペトレアスの本当の失敗は不倫よりもアフガニスタンか Reuters

 伝記を執筆したポーラ・ブロードウェルとの不倫スキャンダル報道が日に日に過熱するペトレアス前CIA長官。だがメディアの論調を見れば、彼は私生活では過ちを犯したものの、イラクやアフガニスタンの駐留米軍司令官として活躍した英雄であることは間違いない、といったものが大半だ。

 先週の会見でオバマ米大統領は、ペトレアスのスキャンダルが「彼のたぐいまれなる経歴」の中の「ほんの1つの過ちだった、ということに落ち着く」よう願っている、と彼を擁護した。

 だが「たぐいまれなる経歴」という言葉は偽りだと、元米軍中佐でアフガニスタン内務省の上級顧問を務めたジョン・クック退役兵は言う。情報将校として20年務め、数々の勲章を受章したクックは、9月に出版した著書『アフガニスタン──完全な失敗』の中で、衝撃的な秘密を暴露している。アフガニスタン戦争の主要な目的はすべて失敗に終わり、その責任はペトレアスにあるというのだ。

 「不倫を理由に辞任するべきではない。アフガニスタンでの大失態の責任を問われて辞めるべきだ」と、クックは言う。「それこそが真のスキャンダルだ」

兵士より市民の命を優先

 クックによれば、司令官に就任した2010年よりずっと前から彼の失敗は始まっていた。最大の過ちは、ペトレアスが06年に発表し、現在も採用されている「対反政府武装勢力戦略(COIN)」。米軍兵士よりもアフガニスタンの一般市民の生命を重視しているせいで、数多くの米兵の命が無駄に失われた。

 結局のところ、米軍は戦闘地域に入っても一般市民がいないことを確認するまでは応戦もできず、航空支援も要請できない状況だった。「タリバンはそれを熟知していた。だから彼らは人口の密集した地域で攻撃を仕掛けてきた」と、クックは言う。

 ペトレアスはオバマに支えられているだけでなく、メディアにも擁護されている。ワシントン・ポスト紙の記者は「彼の空席を埋められる人材はいない」と語り、CNNのアナリストは「アイゼンハワー大統領以来で最も優れた司令官だと、歴史が判断を下す」としている。

 だが「政治家の言うことを気に掛け過ぎて、社会的・人道的に正しい戦争にしようなどと考えるようになったら、それは司令官として迷走しているということだ」と、クックは言う。

 アフガニスタンでの後任となったジョン・アレン司令官についてもクックは切り捨てる。アレンは、ペトレアスのスキャンダル発覚の発端となった女性ジル・ケリーと不適切な関係があったとして、現在FBI(米連邦捜査局)の調査を受けている。

「アレンとペトレアスはよく似ている。彼らは過去の司令官たちと違って、ワシントンの政界に立ち向かう度胸がなく、誠実さにも欠ける」とクックは言う。
クックが声を上げたのは「米軍を愛している」からだ。「勝ち目のない戦いで彼らが摩耗していくのは我慢がならない」

 彼の見解が正しければ、ペトレアスは妻だけでなく、アメリカの信頼も裏切ったことになる。

[2012年11月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国GDP、第1四半期は前年比5.3%増で予想上回

ワールド

米下院、ウクライナ・イスラエル支援を別個に審議へ

ビジネス

中国新築住宅価格、3月は前年比-2.2% 15年8

ビジネス

仏BNPパリバ、中国で全額出資の証券会社 3年がか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中