最新記事

米大統領選

「テキサスの奇跡」その本当の理由

テキサスが金融危機にも負けず過去5年間目覚しい成長を遂げたのは、必ずしも知事の手柄ではない

2011年10月5日(水)16時49分
アニー・ラウリー

売りは経済 米大統領選の共和党候補指名を争うテキサス州のペリー知事 Adam Hunger-Reuters

 来年の米大統領選の共和党候補指名争いに名乗りを上げたテキサス州のリック・ペリー知事。彼は同州が過去5年で遂げた目覚ましい経済成長を「テキサスの奇跡」だと自慢している。

 同州は他の州より景気後退入りが遅かったにもかかわらず、抜け出したのは先だった。テキサスは景気後退終了後に新規雇用の40%を創出し、アメリカ全体の倍のペースで経済を成長させている。失業率は8.4%と高いが、ネバダ州(12.9%)やアリゾナ州(9.4%)よりは低い。「奇跡」とは言えないまでも、見事な成長ぶりだ。

 とはいえ、ペリーがそれを自分だけの手柄と主張するのは無理がある。経済は複雑なもので、それを完全に操れるほどの力は知事にはない。テキサス州の経済成長にはほかにも理由がある。

 第1に石油・天然ガス資源が豊富なこと。08年のガソリン価格高騰はアメリカの深刻な景気後退の要因になったが、豊かな石油資源を持つテキサス州など一部の州には恩恵をもたらした。さらにここ数年は技術の発達で増産が可能となり、石油・天然ガスは同州経済に年間3250億ドルをもたらしている。

 第2に、住宅金融を厳しく規制してきたことだ。テキサス州は長年、住宅所有者が持ち家を「打ち出の小づち」にすることを防ぐ取り組みを行ってきた。住宅を担保にした借り入れには上限が設定され、住宅ローンの借り換えにも規制がある。

 おかげで、同州には住宅バブルが起きなかった。差し押さえになる物件も比較的少なく、地元銀行の経営状態も健全だ。テキサス州民は他州の州民ほど債務を抱え込まずに済んだので消費支出も堅調。州経済の安定ぶりと比較的低い失業率の背景にはこうした事情がある。

 第3の要素は移民。極論すれば同州の経済成長は人口の増加によるものだ。州人口はこの10年で20%以上も増加。人口増による活発な消費が地元産業を支え、雇用創出につながっている。

 他の州はテキサスから何を学べるだろうか。もちろん、石油がなければ油田で経済を潤すわけにはいかない。移民を引き付けるような条件を人為的に整備するのも難しい。だが消費者を債務地獄から守り、住宅金融の規制を強化することは可能なはずだ。

 重要なのは、ペリー知事の経済運営ではなく、テキサス経済そのものに目を向けることだ。

© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC

[2011年9月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とインドネシア、地域の平和と安定維持望む=王毅

ワールド

日鉄のUSスチール買収、法に基づいて手続き進められ

ワールド

インドネシア、大規模噴火で多数の住民避難 空港閉鎖

ビジネス

豪企業の破産申請急増、今年度は11年ぶり高水準へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中