最新記事

予算

大量失業と赤字放置で米経済に大打撃?

米国債の格付け見通しが「弱含み」に引き下げられた背景にある、アメリカの政治の機能不全

2011年4月19日(火)16時10分
エズラ・クライン

正念場 赤字削減を急ぎ過ぎれば、米経済が失速する恐れがあるとの見方も(オバマ大統領の予算教書) Jonathan Ernst-Reuters

 最近の米議会関連のニュースは、またもや二大政党が予算や財政赤字の問題で争っているという印象を多くの人に与えるだろう。だが今回は、毎度おなじみの「けんか」では済まないかもしれない。米経済が危機にさらされる恐れがあるのだ。

 議会では2011会計年度(10年10月〜11年9月)の予算をめぐる共和党と民主党の審議が難航。暫定予算が切れれば、連邦政府の業務が停止されるという非常事態になっている。

 4月か5月までに、両党は政府の債務残高の上限を引き上げるべきか否かという不毛な大論争を始める構えだ。12会計年度予算の審議は後回しにされる。

 いずれにせよ、両党の協議が袋小路に入ってしまったら、米経済が大きなダメージを受けかねない。弱々しい景気回復が失速し、政府の業務停止により市場が大混乱、政府が債務不履行に陥るという展開もあり得る。

 エコノミストの見方では現在の最重要課題は経済成長を軌道に乗せること。その後で財政赤字の解消に急いで取り組むべきだという。

 だが議員たちが無意味な対立を続けていれば、財政赤字も減らせず、雇用も増やせないということになる恐れがある。2つの問題を両方とも解決できる道もあるはずなのに、共倒れになる可能性があるのだ。

 多くのエコノミストは歳出削減を12会計年度まで控えるべきだと主張する。まだ経済回復の足取りは頼りないし、企業が大幅な雇用拡大に踏み切れないでいる現状では、歳出削減は難しい。財政赤字への取り組みは、民間企業に活を入れ、雇用を増やしてからにすべきだ。

 赤字削減を重視する議員たちも、こうした状況を踏まえ、本格的な赤字削減は12会計年度まで待とうとした。オバマ大統領も現実的な議員らも、今は景気刺激を優先すべきであり、赤字削減に本腰を入れるのは1〜2年後にすべきだと考えた。

ツケを払うのは国民だ

 だが結局、11会計年度予算法案の昨年中の成立は共和党の抵抗で不可能になった。昨年11月の中間選挙で、草の根保守連合ティーパーティーの支援を受けて当選した共和党の新人が今年に入って議会入りすると、事態はさらに悪化。共和党指導部が12会計年度予算に盛り込むつもりだった1000億ドルの歳出削減を、彼らは11会計年度に前倒しすべきだと主張し始めた。

 11会計年度の予算でも厳しく歳出削減をするとしたら、経済の見通しは一気に暗くなる。共和党の新たな方針に従えば20万人の雇用が失われると、FRBのベン・バーナンキ議長は推定する。50万〜70万人という民間の予想データもある。

 共和党にしても、赤字削減のためには雇用喪失は仕方ないと言い張るのは無理だろう。共和党が歳出削減の対象と考えているのは教育やホームレス救済、インフラ投資など。高齢者や低所得者向け医療、軍事費など赤字の主な原因とは無縁の分野だ。

 一方、共和党は保守派の論客グローバー・ノークイスト率いる全米税制改革協議会の圧力の下、いかなる増税にも反対という方針に傾いている。ノークイストによると、彼らの目標は「赤字問題に焦点を当てることではなく、政府の支出の規模と範囲を縮小すること」だ。

 この主張に共和党議員の大多数も同調。彼らの頭には、適切に経済を運営すべきだという考えはないらしい。

 ピーター・オルスザグ前行政管理予算局長の言葉を借りるなら、アメリカの経済に必要なのは「短期的には景気刺激で、長期的には赤字削減」。だが、今もてはやされている主張は「短期的な赤字削減だけ」だという。

 このままでは最悪のケースになってしまう。その代償を払うのはアメリカ国民だ。

[2011年3月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO

ビジネス

米総合PMI、4月は50.9に低下=S&Pグローバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中