最新記事

シネマ&ドラマ

米大統領選

2016年──オバマ破壊の旅?

'2016': A Slick Pitch to the Anti-Obama Faithful

オバマはアメリカを破壊する白人差別のムスリム共産主義者──過激なのに説得力もあるこの映画は、反オバマの新たな攻撃材料になる

2012年8月29日(水)15時46分
ジーン・マッケンジー

印刷

『2016──オバマのアメリカ』という映画をご存知だろうか。私はほんの24時間前、米共和党全国大会に出席していた俳優のジョン・ボイトから初めてこの映画のことを聞かされた。

「あらゆる人が『2016』を観るべきだ」と、ボイトは言った。「ただの党利党略映画じゃない。これは真実そのものなんだ」

 この映画を監督したディネシュ・デスーザが訴える「真実」はシンプルだ。オバマはケニア人の父から受け継いだ反植民地主義的で反資本主義的で反キリスト教的な「夢」のために、アメリカを破壊しようと突き進んでいる──。

 デスーザはニューヨークのキリスト教の大学キングス・カレッジの学長。オバマ批判で知られる保守派の政治評論家でもある。

 彼が監督した90分のこの映画は、オバマの知人などのインタビューやデスーザのナレーションで構成されるドキュメンタリー。目的は、オバマの大統領としての行動の裏にある本当の目的を暴くことにある。そのためデスーザはオバマの人生を3年以上にわたって追跡。父バラク・オバマ・シニアを知る人々にもインタビューを行っている。ほとんど会ったこともないのに、若きオバマに最も大きな影響を与えた人物──それが父だった、というわけだ。

 デスーザは過激な表現は用いていない。だが、彼の言う反資本主義とはつまり「共産主義」。反キリスト教は「イスラム教」で、反植民地主義は「反白人主義」ということだ。簡単に言えばこの映画は、「過激な共産主義ムスリムで白人嫌いのオバマがアメリカを乗っ取ろうとしている」と訴えている。

ドキュメンタリーでは異例の大ヒット

 今秋に大統領選を控え、オバマと共和党のミット・ロムニー候補が支持率で拮抗する中、この映画はかなり過激なスローガンだ。

 デスーザ自身はインド出身で、自分は人種差別主義者ではないと強調している。自分とオバマとは肌の色がほぼ同じだ、と彼は言う。とはいえ、彼の映画は有権者の人種的、政治的な恐怖を見事に呼び起こすような出来栄えだ。

 8月27日に開幕した共和党全国大会の会場では、『2016』がいかに素晴らしい出来だったかと熱く語り合っている記者たちの姿も見られた。

 たしかに作品はプロの仕事と言える完成度で、洗練されていて興味深く、説得力があった。興行的にも成功しており、公開された先週末の興行収入ランキングではドキュメンタリー映画としては異例の7位にランクインした。もちろん、保守派の論客たちからは素晴らしい「洞察力」だと絶賛された。

 いまや映画のメッセージは保守派だけでなく一般の人々にも浸透しつつある。オバマの支持者が映画の主張を受け入れるとは思えないが、オバマに批判的な人たちにとっては新たな攻撃材料になることだろう。

「2008年の時点では、われわれはオバマを分かっていなかった」と、映画の中では語られている。「今では分かる。2016年のアメリカを支配するのはアメリカンドリームか、オバマ・ドリームか」

 2016年には、この映画が保守派の単なる妄想だったのか、真実を描いたものだったのかも明らかになるだろう。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ

最新ニュース

ワールド

ペルー大統領、フジモリ氏に恩赦 健康悪化理由に

2017.12.25

ビジネス

前場の日経平均は小反落、クリスマス休暇で動意薄

2017.12.25

ビジネス

正午のドルは113円前半、参加者少なく動意に乏しい

2017.12.25

ビジネス

中国、来年のM2伸び率目標を過去最低水準に設定へ=現地紙

2017.12.25

新着

ここまで来た AI医療

癌の早期発見で、医療AIが専門医に勝てる理由

2018.11.14
中東

それでも「アラブの春」は終わっていない

2018.11.14
日中関係

安倍首相、日中「三原則」発言のくい違いと中国側が公表した発言記録

2018.11.14
ページトップへ

本誌紹介 最新号

2024.4. 2号(3/26発売)

特集:生存戦略としてのSDGs

2024.4. 2号(3/26発売)

サステナビリティーの大海に飛び込んだ企業の勝算を、経営学者・入山章栄とSDGs専門家・蟹江憲史が読み解く

ビジネス SDGsのファーストペンギンに続け
農業 都会のど真ん中で野菜を育てて地球を救う
金融 全人類に機会を!目指すのは民間版世界銀行
福祉 芸術×ビジネスで世界を変える
スチール 鉄鋼はグリーンに、軽やかに
自動車 EV化を加速するフォードがウーバーとタッグ
企業支援 「多様性」推しの小規模店支援で地域社会も活性化
社内改革 製造業にこそDEIは必要だ
■ニューズウィーク日本版SDGsアワード 2023■
イベント SDGsの一隅を照らす
受賞企業 アイデアと努力で持続可能に
デジタル雑誌を購入
最新号の目次を見る
本誌紹介一覧へ

Recommended

MAGAZINE

特集:静かな戦争

2017-12・26号(12/19発売)

電磁パルス攻撃、音響兵器、細菌感染モスキート......。日常生活に入り込み壊滅的ダメージを与える見えない新兵器

  • 最新号の目次
  • 予約購読お申し込み
  • デジタル版

ニューストピックス

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム&ブログ
  • 最新ニュース