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天国の描写は監督泣かせ

Heaven Help Us

死後の世界No.1なら『ラブリーボーン』より是枝作品

2010年2月3日(水)16時20分
リサ・ミラー(宗教問題担当)

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死んだら天国に行きたい。たいていの人はそう思っている。しかし、映画で天国を描くのは意外と難しい。人が思い描く天国のイメージは千差万別で、これが天国だと決め付けられてもそう簡単には納得しないからだ。

 例えばピーター・ジャクソン監督の新作『ラブリーボーン』(日本公開は1月29日)。彼の描く天国は、バービー人形がLSDでラリって遊んでいるような趣だ。その天国には森もあれば氷山もあり、14歳の主人公スージーは天国の友達とファッションショーを開いたりする。この靴、ステキ! この紫、キラキラでいい感じ! 

 見ていた私は、たった2分でギブアップ。これならショッピングモールにいるほうがましだ。

 描きにくいのも無理はない。天国といえば伝統的に、私たちの想像の中では超自然の最たるものだ。最高に清く正しく美しく、完璧かつ真実。ヨハネの黙示録によれば、天国では神が「涙を拭ってくださる。もはや死はなく、悲しみも嘆きも苦労もない」そうだ。

 神学者は天国について論じ合ってきた。天国は死者同士が交流する場なのか、それとも魂が神と交わる場か。個人の願いがかなう場か、それとも個は消滅するのか。あいにく唯一無二の答えはない。天国を表現するには、映画よりもダンテの詩やバッハのオラトリオのほうが適しているのだろう。

幸せは人生の断片に潜む

 天国を描いて成功した映画は、たいていその一面だけを集中的に描いている。コメディー『あなたの死後にご用心!』(91年)は死後の審判の場面を描き、天国にふさわしいのは愛と勇気に満ちた人間だと訴え掛けた。『ゴースト/ニューヨークの幻』(90年)は、愛する人は死んでも私たちを見守っているという昔ながらのコンセプトが中心だった。

 私にとって最もよくできた天国映画は、是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(99)だ。死んだばかりの人々が施設に集められ、職員に「人生の中から大切な思い出を1つだけ選んでください」と言われる。選んだ思い出が、死者にとっての幸せな永遠となるのだ。

 ある男性は夏の日に路面電車の窓から吹き込んできた風を思い出す。幼い日の遠足を挙げた老女もいる。彼らのように簡単に選べる人もいるが、愛に恵まれなかった人や他人に冷たい生き方をしてきた人には、この選択は拷問に近い。

 天国という名の完璧な幸せは、意外に小さな人生の断片に潜むもの。そうした一瞬を逃さず大切にできるのが、真に祝福されし者なのだろう。

[2010年1月13日号掲載]

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