9月に米FOXテレビでスタートしたドラマ『グリー』は、高校の合唱部を舞台にしたゲイ色たっぷりのコメディー。先日のエピソードでは、ミュージカル『ウィキッド』のナンバー「自由を求めて」で部員たちが競い合う。合唱部のディーバ、レーチェルに対抗するのは......男性版ディーバ(で若き同性愛者)のカート(クリス・コルファー)だ。
アレキサンダー・マックィーンがデザインしたふわふわのセーターを着たカートは、見事な高音を響かせる。ビヨンセの「シングル・レディース」を歌うときは、本人よりも激しく腰を振る。
芯の強さと率直さもカートの魅力。息子がゲイであることを受け入れられない父親との緊張感漂うシーンには心を打たれる。
こんなにもいとおしいカートだが、視聴者を困惑させることもある。合唱部が男女に分かれたとき、彼は迷うことなく女子チームへ。カートが性同一性障害ならうなずけるが、そうではない。彼はただ同性が好きな繊細な男の子だ。
もちろんゲイであることはちっとも悪くない。同性愛者の抵抗運動の始まりとなった40年前のストーンウォール事件以来、ゲイ社会は自分が好きな人を愛する自由だけでなく、ありのままの自分でいる自由のために闘ってきた。
テレビもこれに協力した。97年、女優エレン・デジェネレスはレズビアンであることを公表。ドラマで演じていた役にもカミングアウトさせ、多くのゲイキャラクターが登場するきっかけをつくった。
翌年にはドラマ『ドーソンズ・クリーク』にジャック(カー・スミス)が登場。ゴールデンタイムでカミングアウトしたティーン第1号かもしれない。同年に始まった『ふたりは友達? ウィル&グレイス』には、奔放なお姉キャラのジャック(ショーン・ヘイズ)とエリート弁護士のウィル(エリック・マコーマック)がいた。
同性婚容認の流れは後退
テレビに出てくる同性愛者のタイプは次第に多様になっていく。ダサい男を改造するリアリティー番組『クイア・アイ』のゲイ5人組や、ドラマ『Lの世界』のレズビアンたちがいい例だ。
テレビのおかげもあって、ゲイはメインストリームの仲間入りをした。ある調査では、過去5年間で同性愛者に好意的になったという人の約3分の1が、テレビのキャラクターが一因だと答えている。
しかし最近は、同性愛者容認の流れが後退しているようだ。カリフォルニア州最高裁は5月、同性婚の禁止を決めた昨年の住民投票を有効とする判決を下した。11月にはメーン州でも、同性婚の合法化が住民投票で覆された。
とはいえ、これはテレビの責任ではない。ポップカルチャーの使命は人々を楽しませることであり、お説教することではない。それでも『グリー』のカートのように露骨な「お姉キャラ」が増えたことが、反発を呼んでいるのかもしれない。
『アグリー・ベティ』にはケバいアシスタントのマーク(マイケル・ユーリー)が、『アントラージュ★オレたちのハリウッド』には気取った秘書ロイド(レックス・リー)がいる。デザイナー発掘リアリティー番組『プロジェクト・ランウェイ』は金切り声を上げる同性愛者だらけだ。
11月23日には『アメリカン・アイドル』シーズン8の準優勝者アダム・ランバートのデビューアルバム『フォー・ユア・エンターテインメント』が発売された。ジャケットのランバートはマスカラをたっぷり付け、ネイルは黒、唇はグロスで輝いている。
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