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恋愛映画は死んだ?『(500)日のサマー』

The Death of the Love Story

正統派のラブストーリーがめっきり減っている。期待した『(500)日のサマー』もちょっと違う……

2010年1月14日(木)13時51分
ラミン・セトゥデ(エンターテインメント担当)

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 映画の中で、恋に落ちる若者を見たのはいつのことだろう? まったく覚えていない。私は82年生まれ。その年に公開された『E.T.』では、ちびっこのドリュー・バリモアがしわくちゃエイリアンに夢中になっていたが......。

『カサブランカ』も『風と共に去りぬ』も『ローマの休日』も過去のもの。わが青春時代の恋愛映画といえば、ケイト・ウィンスレットとレオナルド・ディカプリオが乗った『タイタニック』だ。

 正直言ってこれ以外に、熱い恋を描いた作品は思い浮かばない。『プラダを着た悪魔』は、女性が本当に求めているのはファッションだと教えてくれた。『ジュリー&ジュリア』では料理だ。ジョン・キューザックがラジカセを掲げて思いを伝えた『セイ・エニシング』のような恋愛ドラマは、もはや存在しないのかもしれない。

『セックス・アンド・ザ・シティ』のキャリー・ブラッドショーは「愛が欲しい。本物の愛が。バカげていて不自由で、相手なしではいられない、激しい愛が」と言った。こんな救い難いロマンチックな人間が今もいるだろうか?

 恋愛ものを葬り去るのに一役買ったのが、人気ドラマ『フレンズ』だ。放映が開始された94年以降、テレビや映画に出てくる20代といえばシングルで、不安定で、自分が大好きな人間ばかりだ。

あまりにあっけない破局

 今年一番強烈な恋愛ものといえば、インディーズ系の『ハンプデイ』だろう。異性愛者の男友達2人がゲイのポルノ映画を作る話だ。だから、私が『(500)日のサマー』に心を奪われたのも無理もない。もっともそれは、映画自体を見る前のことだが。

 予告編からは、私たちの世代が待ち望んでいたラブストーリーの気配が伝わってきた。魅力的なのに不器用な若い男女がエレベーターで出会う。2人とも服のセンスも抜群だ。

 これは期待できそうだと思ったのに、映画を見てみたらいきなりこんなナレーションが入ってがっかり。「お断りしておくが、これはラブストーリーではない」

 もっと正確に言えば、これは恋愛アレルギーのラブストーリーだ──少なくとも女の子のほうは。ズーイー・デシャネル演じるサマーは真実の愛を信じていない。だから、会社の同僚と付き合ってもなかなか関係が進展しない。

 一方、お相手のトム(ジョセフ・ゴードン・レビット)は、恋愛がすべてという男。というより、愛という概念を愛しているのだろう。トムはサマーにぞっこんになり、彼の思いはアニメの鳥が舞う、『アリーmy LOVE』ばりの路上のダンスシーンに表現される。

 そのままの勢いで盛り上がってほしいのに、監督のマーク・ウェブは観客をつらい別れに引きずり込む。トムとサマーは、ブリトニー・スピアーズの結婚生活のようにあっけなく破局するのだ。

古きよき時代が懐かしい

 これはネタバレではない。観客は早々に2人の別れを知らされ、その後はドラマ『LOST』のように過去と未来が入り乱れていく。
 
 この映画を配給したフォックス・サーチライトは今年の夏、ラブストーリーをもう1つ手掛けている。自閉症の一種であるアスペルガー症候群の青年(ヒュー・ダンシー)と、同じアパートに住む女性の恋愛を描いた『アダム』だ。

 2人は境遇が違っても、今まで誰も見たことのない熱烈な恋をする。たぶんそれでいいのだ。普通にデートをして愛が生まれる時代ではない。ここ10年で最高の恋愛映画といえる『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』と『JUNO/ジュノ』では、予期せぬ妊娠によって本当の相手が見つかった。

 それでも古きよき時代が懐かしい。高校のときに見た『ノッティングヒルの恋人』ではジュリア・ロバーツがヒュー・グラントに「私はただの女の子。男の子の前に立って愛してほしいと頼んでるの」と切なく告白してたっけ。

(『(500)日のサマー』は2010年1月9日(土)から、TOHOシネマズシャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー)

[2009年9月23日号掲載]

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