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修羅場はくぐったがピアノは未経験、50代でABBAを弾いた...ただそれだけの経験が人の心を打ったのはなぜ?

2025年5月16日(金)16時30分
鈴木智彦
ピアノを弾く人

なのにABBAで。まさかABBAで。:イラスト/高橋将貴

<全力を尽くした5年越しのルポを校了したとき...「ライターズハイ」で観た1本の映画が人生を変えた>

暴力団取材の第一人者として知られる鈴木智彦氏が書いた異色のピアノ本『ヤクザときどきピアノ』(CEメディアハウス)が、刊行から5年以上を経てなお読まれ続けている。

YouTube開設からわずか1年で7.3万人ものチャンネル登録者数を誇る「積読チャンネル」で紹介されて再ブレイクした他、NHKラジオ「高橋源一郎の飛ぶ教室」(2025年3月21日)でも取り上げられ、新たな読者を獲得した。ロングセラーになる本とは、口コミで広がるものである。なにせ、読めば必ず人に語りたくなる、喜びと愛に満ちた1冊なのだ。

◇ ◇ ◇


ベストセラーとなった『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う」』(小学館)は、取材に5年以上、取材費に数百万を費やして書き上げた。その仕上げの証言を得るために、根室のヤクザの元へ向かうが、2018年9月6日午前3時7分、北海道胆振東部地震が発生する。

台風で飛行機が飛ばないから軽トラで乗り込んだ北海道で...地震!

キャンプ用具を積んでいるので問題ないと思っていたが、どこも入場禁止で宿泊できない。ラジオは地元民のための情報ばかりで、観光客のことなど構っていられないようだった。地震や津波で市街地が容赦なく破壊されていたなら、どこにでも遠慮なくテントを張る。しかし、ブラックアウトは日常生活を根本から破壊しつつ、街は一切壊さないのだ。

仕方なく避難所になっていた中島公園の体育館に逃げ込んだ。まさか故郷で体育館に雑魚寝(ざこね)するとは思ってもみなかった。その夜、全道一の歓楽街であるススキノへ出かけてみると、居酒屋もジンギスカン屋も、キャバレーもソープランドも真っ暗だった。テレビによく登場する薄野(すすきの)の 交番も、六代目山口組直参(じきさん)の誠友会本部も闇の中で沈黙していた。

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