演技は悪くないが、今なぜコレ?──「置いてけぼり感」だけが残る迷走映画の是非
Stylish but Tepid
砂漠の中に開発された新興住宅地でアリスとジャックは夢のような新婚生活を送っていたが…… ©2022 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
<オリビア・ワイルドの監督2作目『ドント・ウォーリー・ダーリン』はSFスリラーとしては面白い。しかし、テーマの焼き直し、かつジェンダー政治に全く居場所なし。本記事2ページ目以降は「ネタバレ禁止」>
俳優オリビア・ワイルドの監督2作目となる『ドント・ウォーリー・ダーリン』は、9月にベネチア映画祭で初上映される前から、舞台裏のゴシップばかりが目立っていた。
長年の婚約者(と子供2人)のいたワイルドが、主演の(そして10歳年下の)ハリー・スタイルズと付き合い始めたこと。もともと主演する予定だったシャイア・ラブーフの降板理由をめぐる説明の食い違い。そしてもう1人の主演フローレンス・ピューとワイルドの不仲説......。
それでも作品の出来がよければ、そんなスキャンダルも簡単に忘れ去られただろう。ところが、『ドント・ウォーリー・ダーリン』は、スタイリッシュだが、少なくとも『ステップフォード・ワイフ』(1975年)以来、何度も映画化されてきたイメージとテーマの焼き直しにすぎない。
一見したところ幸せいっぱいだが、抑圧的な服従を求める郊外の結婚生活であり、アメリカの消費主義の明るい仮面に隠された道徳的腐敗、そして女性たち(特に満ち足りた主婦を演じる女性)の心と魂をむしばむ性差別だ。
この手の映画の伝統を踏襲して、『ドント・ウォーリー・ダーリン』も、砂漠のど真ん中に開発された新興住宅地「ビクトリー」を舞台に展開される。住民は新婚夫婦ばかりで(子供がいる家庭もいくつかある)、どこもかしこもパステルカラーのひどく人工的なオアシスだ。
男たちは皆、町外れの極秘施設で「ビクトリー・プロジェクト」に従事している。女たちは毎日、料理や掃除やおしゃれをして夫の帰宅を待つ。インテリアもファッションも人間関係も、50年代のドラマから抜け出してきたかのような世界だが、どこか不穏な空気が漂っている。
カリスマ的なリーダーのフランク(クリス・パイン)は、カルト教団の教祖のように町を動かしていて、巧みなスピーチで住民をコントロールする一方で、ルールを逸脱しそうな住民(特に女性)に厳しく目を光らせている。
フランクの目下の懸念の1つは、アリス・チェンバーズ(ピュー)の奇妙な振る舞いだ。アリスはまだ夫ジャック(スタイルズ)との間に子供がおらず、熱々の新婚生活を満喫していたが、この絵に描いたような楽園は何かがおかしいと感じ始めていた。
俳優陣の演技は悪くない
ある朝、アリスが夫の朝食を用意しようと卵を割ると、どれも中身が空っぽの殻ばかり。トロリーで町外れに行ったとき、確かに飛行機が墜落するのを見たのに、みんな気のせいだと言う。友人のマーガレット(キキ・レイン)が自殺を図り、さらに行方不明になったことを訴えても、誰も相手にしてくれない。