最新記事

SF映画

R・スコット監督のSF映画『オデッセイ』が米で首位発進、宇宙科学への関心喚起に貢献

The Martian

NASAが全面協力。内容の科学的正確性を検証するメディアも

2015年10月13日(火)16時50分
高森郁哉(翻訳者、ライター)

NASAの広告映画?  映画『オデッセイ』のヒットは、火星探査への関心を喚起する  (C)2015 Twentieth Century Fox Film

NASA火星の大発見にも『陰謀』を疑うアメリカ人」という当サイト記事で言及されていたこともあり、リドリー・スコット監督の新作SF映画『オデッセイ』(原題The Martian、日本では来年2月公開)をご存知の読者も多いだろう。マット・デイモン扮する宇宙飛行士マークが火星に取り残される物語だが、科学技術面で監修にあたったNASA(米航空宇宙局)が、米国公開の10月2日にタイミングを合わせるかのように9月末、「火星の表面には今も水が流れている」との新発見を発表したことにも疑いの目が向けられたというのだ。

 実際、NASAは8月に公式サイト上で「『オデッセイ』に登場する9つのリアルなNASA技術」と題した解説記事を掲載し、これが多くの大手メディアに紹介されるなど、映画の前宣伝にも大いに貢献していた。その甲斐もあってか、本作は北米公開から2週連続で週末興行収入の首位に立ち、累計興収は1億ドルを突破(Box Office Mojo)。大ヒットを受けて、インド系メディアのガジェッツ360が「『オデッセイ』は近年最高のNASA広告」と皮肉めいた記事を掲載する一方、米ワシントンポストは「『オデッセイ』、NASAと科学・娯楽複合体の台頭」と題し、米国の宇宙機関と映画産業の蜜月期を論じている。

 さて、先述の「リアルなNASA技術」とは、居住環境、農場、水の再生、酸素の生成、火星用宇宙服、ローバー(探査車)、イオン推進、ソーラーパネル、放射性同位体熱電気転換器(RTG)の9つ。これだけ多くの技術が解説付きで取り上げられると、すべて科学的事実に基づいた映画のようにも思えるが、そこはやはりフィクション。既知の科学に反する描写もいくつか含まれており、タイムVoxなどのメディアが具体的に例を挙げている。


 一部を紹介すると、マークが火星上で砂嵐に吹き飛ばされて行方不明になる描写があるが、火星の大気は地球の大気の200分の1程度の密度しかなく、実際に風は吹くものの人間を吹き飛ばすような威力はないという。また、火星では地球上よりもはるかに多くの放射線を浴びることになるが、映画では放射線対策の描写が見られない。さらに、排泄物を肥料にしてジャガイモを育てるエピソードについては、火星の土壌は高濃度の過塩素酸塩や酸化活性物質を含むため毒性が強く、栽培は難しいとしている。ほかにも数点あるが、ストーリーの後半に触れる要素があるため、ここでは控えたい。

『オデッセイ』の科学的正確性を大まじめに検討するメディアがある一方で、映画を観て実話に基づく内容だと勘違いした人も続出しているという(これもタイムの記事)。さまざまな形の反応があるにせよ、こうした盛り上がりが現在進行中の無人探査、そして将来計画されている有人火星探査への関心を喚起しているのは確かだろう。余談だが、宇宙と陰謀論と映画のつながりで、月面着陸の捏造を米政府がスタンリー・キューブリック監督に依頼したという有名な都市伝説をベースにしたコメディ映画『ムーン・ウォーカーズ』が11月に日本公開される。こちらも楽しみな作品だ。


[執筆者]
高森郁哉
米国遊学と海外出張の経験から英日翻訳者に。ITニュースサイトでのコラム執筆を機にライター業も。主な関心対象は映画、音楽、環境、エネルギー。

ニュース速報

ワールド

イタリア首相、辞意を表明 敗北は「極めて明確」

ワールド

バルス仏首相、大統領選出馬を5日表明へ=報道

ビジネス

三井住友とみずほ、露ガスプロムに950億円融資 日

ワールド

中国・内モンゴルの炭鉱爆発で32人死亡、事故相次ぐ

MAGAZINE

特集:トランプ時代の国際情勢

2016-12・ 6号(11/29発売)

トランプ次期米大統領が導く「新秩序」は世界を新たな繁栄に導くのか、混乱に陥れるのか

人気ランキング

  • 1

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年には空母も

  • 2

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結成した理由

  • 3

    プーチン年次教書「世界の中心で影響力」を発揮する

  • 4

    タイ新国王が即位しても政情不安は解消されない

  • 5

    百田尚樹氏の発言は本当に「ヘイトスピーチ」なのか…

  • 6

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 7

    初の極右国家元首ならず、オーストリア大統領選は親…

  • 8

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃな…

  • 9

    イタリア政府、憲法改正国民投票を12月4日実施 首相…

  • 10

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 1

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 2

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結成した理由

  • 3

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年には空母も

  • 4

    スラバヤ沖海戦で沈没の連合軍軍艦が消えた 海底か…

  • 5

    悪名高き軍がミャンマーで復活

  • 6

    新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

  • 7

    バルト3国発、第3次大戦を画策するプーチン──その時…

  • 8

    偽ニュース問題、米大統領選は始まりに過ぎない?

  • 9

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃな…

  • 10

    イタリア政府、憲法改正国民投票を12月4日実施 首相…

  • 1

    トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

  • 2

    68年ぶりの超特大スーパームーン、11月14日に:気になる大地震との関連性

  • 3

    「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び

  • 4

    注目は午前10時のフロリダ、米大統領選の結果は何時…

  • 5

    トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

  • 6

    米大統領選、クリントンはまだ勝つ可能性がある──専…

  • 7

    トランプ勝利で日本はどうなる? 安保政策は発言通…

  • 8

    【敗戦の辞】トランプに完敗したメディアの「驕り」

  • 9

    安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指…

  • 10

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「五輪に向けて…外国人の本音を聞く」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2016年12月
  • 2016年11月
  • 2016年10月
  • 2016年9月
  • 2016年8月
  • 2016年7月