最新記事

世界経済

米中通商合意に早くも危機説 中国の米農産品購入に懐疑的見方強まる

2020年1月16日(木)11時00分

中国が米国との「第1段階」通商合意の署名式で、米農産品を大量輸入するとの約束について「市場状況に基づく」購入になると発言したことから、農家や貿易業者の間では、米農産品への報復関税で具体的対応が取られるかどうかに懐疑的な見方が強まった。写真は15日、ホワイトハウスで署名式に臨むトランプ米大統領(右)と中国の劉鶴副首相(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

中国が15日に行われた米国との「第1段階」通商合意の署名式で、米農産品を大量輸入するとの約束について「市場状況に基づく」購入になると発言したことから、農家や貿易業者の間では、米農産品への報復関税で具体的対応が取られるかどうかに懐疑的な見方が強まった。

合意で中国は2020年に追加的に少なくとも125億ドルの米農産品を購入し、21年は195億ドル以上を追加購入すると確約。いずれも17年の240億ドルの輸入実績に基づいている。

ホワイトハウスの署名式でトランプ米大統領の隣に立った中国の劉鶴副首相は、中国企業は米農産物を「市場状況に基づき」購入すると発言した。

これを受けて指標となるシカゴの大豆先物は1カ月ぶりの安値を付けた。米国産大豆は米中貿易戦争が勃発する以前は米農産品の対中輸出で金額別の最大品目だった。

シカゴの証券会社ゼイナー・グループの首席ストラテジスト、テッド・セイフリード氏は、市場状況の発言に加え、具体的な購入契約が交わされなかったことが失望を誘ったと指摘。

中国への売り込みを目指す米国の大豆生産者には、今後数週間に始まる収穫シーズンで過去最大級の収穫規模が確実視されているブラジル産大豆との競争が待ち受けている。

米アイオワ州のトウモロコシ・大豆農家、チャーリー・ザンカー氏は「合意で私たちの状況が大きく変わるとは思わない」と語る。貿易は「国際市場」で行われているからだとした。

合意では主要な米農産品に対する中国の関税が引き下げられることはなかった。ただ、トランプ大統領は米中が「第2段階」の合意に達し次第、すべての関税措置を解除すると表明した。中国でアフリカ産豚コレラの感染が拡大し、輸入豚肉の需要が高まっているにもかかわらず、米国産豚肉への関税率は68%にとどまる。

署名式に出席した全米豚肉生産者協議会のデービッド・ヘリング会長は「関税は撤廃されるべきだ」と強調した。

トランプ政権の高官は署名式後、中国は対米輸入拡大の約束を果たすために、関税の免除や調整などの措置を取る必要があるとの見方を示した。

中国の貿易業者も合意の実効性に懐疑的な見解を表明。

農作物を取引する中国の貿易業者は署名式前に「中国が合意から得るのもは何もないと私には思える」と指摘。「いくばくかの平安の見返りにお金を払っているだけだ」とした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げ前に物価目標到達を確信する必要=独連

ワールド

イスラエルがイラン攻撃なら状況一変、シオニスト政権

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中