最新記事

日本企業

「M&Aも優れた経営者も不要」創業100年TOTOが成長し続ける理由

2018年1月12日(金)18時22分
杉本りうこ(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

toyokeizai180112-3.jpg

初代社長の大倉和親氏。日本とアジアの生活水準の向上を目指して、会社を立ち上げた(写真:TOTO提供)

経営理念は社員のためじゃない

――TOTOは創業100年の長寿企業。そもそも、どういう由来の会社なのでしょうか。

はじまりは大倉和親(大正期の実業家。1875~1955年)とその父が欧州を旅し、現地の衛生陶器に驚嘆したことです。西洋の文化的な衛生陶器を東洋に広げたいと考え、今の3億~4億円に相当する私財を投じて研究所を作りました。「東洋陶器」というかつての社名には、こういう思いが凝縮されていました。儲けたいというよりも、日本とアジアの生活水準を向上させることを目指して始まった企業なのです。

和親は2代目社長に、書簡でこう伝えています。


「どうしても親切が第一
奉仕観念をもって仕事をお進め下されたし
良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体です
この実像を握り得れば、利益・報酬として影が映ります
利益という影を追う人が世の中には多いもので
一生実体を捕らえずして終わります」

よい商品を供給し、需要家に満足してもらい、その結果として利益が生まれる。決して、利益を先に求めてはいけない。そういう意味です。大事なのは、これは社長から社長へ語られた理念だということ。社員にも覚えていてほしいですが、上に立つ人間こそが理解しなければならない。経営トップや取締役、執行役員はこの言葉をいつも胸に秘め、これに反することを絶対にやらないように努める。

上の人がえらそうなことを言いながら、実際にやっていることがぜんぜん違う、なんてことは現場の社員が実によく見ている。経営理念とは上に立つ者がかく汗、実践してみせる姿で学んでもらうもの。一般の社員に「勉強しなさい」と求めるものじゃないと、僕たちはいつも言っています。

toyokeizai180112-4.jpg

喜多村円社長は「メーカーは美しさに挑戦することで技術が格段に進歩する」と主張する(写真:TOTO提供)

美が製造業の技術を磨く

――喜多村社長の実践の1つとしては、製品デザインの改善に一貫して力を入れています。

TOTOは衛生陶器とウォシュレットの技術では間違いなく世界一。でも、デザインでは決して世界一じゃなかった。特に欧州のメーカーと比べると負けています。だからこれからの100年は、美しさを学ぶ必要があります。社長になる前から、「自社のデザインの特長は言えて当たり前。ライバルのデザインの何が優れているか、挙げられるように」と現場に言ってきました。

美しさは価値に変えることが難しい。機能に対価を求めるのは簡単ですが、美しさは感性によって評価されるので、経済的な価値を認めない人もいます。でも美しいものを美しいと感じることこそが人間らしさ。デザインがよいからといって5万円高くすることは無理ですが、値段が同じなら美しいほうが選ばれます。

そしてメーカーは、美しさに挑戦することで技術が格段に進歩します。真四角な製品を作るのは簡単ですが、微妙なカーブを描くものは生産技術が優れていないと作れません。特に衛生陶器は焼き物で、窯から出すと微妙に変形する。繊細で複雑な形状だと、焼く温度の調整から乾燥炉の風の向きまでコントロールしないといけません。うちはスーパーコンピュータで計算しながら、こういう調整をていねいにやっています。こんなことをやろうという同業は、世界にもいません。

こんな難しいことができるのは、技術者の志が高くて、意地があるから。だからこそ、海外の展示会で他社の製品を見ても「この作り方はダメ、これじゃあすぐ壊れる」「うちの技術はまだまだ追いつかれていないね」と技術力の比較になりがち。でもうちが技術で勝つのは当然。じゃあデザインはどうなのか、と問いかけています。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中