最新記事

ゲーム

ライバルを圧倒したプレステ4の寛大さ

新製品でプレステと正面対決したXbox Oneが犯した「3つの敗因」とは?

2013年6月28日(金)15時01分
ウィンストン・ロス

完勝 世界最大級の見本市でプレステ4が次世代ゲーム機の王者に Gus Ruelas-Reuters

 先週ロサンゼルスで開催された世界最大級のゲーム見本市、エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ(E3)。その熱気たるや、先の大統領選挙も顔負けだった。

 この見本市に「出馬」したのはマイクロソフトのXbox Oneとソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレイステーション4。Xboxが8年ぶり、プレイステーションが7年ぶりの新製品発売を予告して以来、ゲーマーたちはその発表を待ち受けていた。その期待度は、リーマン・ショック後の景気後退による購買力の減少もものともしない勢いだ。

 そして待ち望んだ瞬間がやって来た。勝負は、プレイステーション4の圧勝だった。堂々たるゲーム機の王者の誕生だ。

 ゲームのニュースサイト、IGNが8万4000人のユーザーを対象に行った人気投票によると、75%がプレイステーション4を一番のゲーム機に選んだ。その差はあまりに圧倒的だったので、Xbox Oneに投票した人はマイクロソフトの「さくら」扱いされたくらいだ。

 なぜプレイステーション4は勝利したのか。関係者によれば、勝因は3つある。「ネットにつながなくていい」「ゲームソフトの交換や中古ソフトの売買ができる」、そして「価格」だ。

「ネットにつなぐ」のは当然と思われるかもしれないが、ゲームの世界ではこれが勝敗を分ける大問題なのだ。Xbox Oneの場合は「少なくとも1日1回」のネット接続を求められる。だがそうなると、絶海の孤島とか山奥のキャンプでは遊べないことになる。

ゲーマーの「怒り」を回避

 友達同士のソフト交換や中古ソフトの売買についても、両社の立場は大きく異なる。Xbox Oneでは、欲しいゲームは新品を買うしかない。ゲーマーはこれに憤慨している。年内に過激なゲーマーによる大規模なデモ行進が予定されているほどだ。ところがSCEの立場はまったく違う。「ゲームソフトの交換も中古の売買も、どうぞご自由に」だ。

 最後は価格。会場は既にSCEの寛容さに感動していたが、ゲーマーが最も気にするのは価格だ。マイクロソフトはXbox Oneの価格を499㌦に設定すると手の内を見せていた。SCEは同じ価格で勝負しても勝っただろう。だがSCEはもっと寛大だった。発表されたプレイステーション4の価格はライバル機より100ドルも安い399ドル──もちろん会場には衝撃が走った。

 SCEはどこで「勝利のレシピ」を手に入れたのか。SCEアメリカのハードウエア・マーケティング担当副社長のジョン・コラーは、3つの決断の背景にはユーザーたちとの大議論があったと語る。

 中古ソフトの売買については「利用者の側に立つ」。利用者は中古ソフトを売って新しいソフトを買うことが多く、コラーは「中古ソフトの売買は新製品の売り上げにもつながる」と言う。そして、これを禁じたらゲーマーが猛反発することも分かっていた。「顧客を怒らせるのは、当社の望むところではない」

 ネットにつなげなくても遊べる、というのも同じ考えからだ。「ゲームソフトを本体に入れるだけ。それ以上、利用者に負担をかけたくない」。コラーは価格の話には触れたがらない。だが価格はライバル社のそれが発表される前から決まっていたと言う。「価格は徹底した過去の情報分析からはじき出した。だから消費者の心を打つ」

 これまでのゲーマーたちの反応からすれば、まさに「心を打つ」という表現がピッタリだ。

[2013年6月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中