最新記事

インタビュー

彼女が「白熱教室」で学んだこと

16歳で単身渡米した東京の「普通の女子高生」がハーバードでMBAを取得し、グーグル本社で才能を開花させるまで

2012年4月25日(水)18時37分
井口景子(本誌記者)

「世界で最も働きたい会社」の一つといわれるシリコンバレーのグーグル本社。そんな難関を突破し、その中枢で働く日本人女性がいる。石角友愛さん。日本で生まれ育ち、英語が得意なわけでもなかった彼女が、世界中の頭脳が結集するグーグルで才能を認められるまでになった最大の要因は、アメリカの高校と大学、そしてビジネススクールで経験した、日本とは違う「勉強」のおかげだという。
 
 石角さんが東京の国立大学附属高校を中退し、たった一人でアメリカに渡ったのは16歳のとき。アメリカ東海岸のボーディングスクール(全寮制私立学校)に転入し、その後、リベラルアーツ教育の名門で、オバマ米大統領も学んだオキシデンタル・カレッジに進学。いったん日本に帰国して起業した後、再びアメリカへ渡り、ハーバード大学ビジネススクールでMBA(経営学修士号)を取得する。さらに、ハーバード在学中に結婚して出産。ハーバード修了後は家族でシリコンバレーに拠点を移し、子育てをしながらグーグル本社で働いている。

 TOEFL400点以下という英語力で渡米した彼女が、華麗なキャリアを築くまでの過程で、どんな学びがあったのか。その体験を綴った新著『私が「白熱教室」で学んだこと──ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで』(阪急コミュニケーションズ刊)は、留学を志す高校生から、グローバルなキャリアを模索するビジネスマン、我が子を世界のどこでも生きていける人間に育てたいと願う母親まで幅広い層の関心を集めている。

 熱い情熱をもちながら冷静沈着に戦略を組み立て、リスクを恐れずに新たな道を切り拓いていく──今の時代を生き抜くのに必要な資質を兼ね備えた石角さんに多大な影響を与えたアメリカの教育事情や、シリコンバレーでの就職について話を聞いた。

                  *

──16歳で突然、留学することにしたのはなぜ?

 受験対策ばかりで脳が刺激されない授業も、カラオケやコンパばかりの青春もつまらないというマグマが溜まりに溜まっていた。それが高校1年の夏に爆発して、環境を変えるならいっそアメリカに行こうと思った。

──アメリカのボーディングスクールに転入して一番大変だったことは?

 英語もできなかったが、何よりのハンディーはマインドセットを根本的に変えなければ通用しなかったこと。先日、実家で(日本の)中学高校時代の漢文のノートを見たら、単語の意味や訳ばかり書いてあって、(緑のペンでマークした部分を消せる)赤い下敷きまで出てきた。そんな表面的な情報を暗記するだけの勉強では、アメリカの高校や大学では絶対に評価されないし、授業で発言できない。たとえ漢文であっても、なぜこの人はこう書いたのか、どういう時代背景でこの文が好まれたかという本質的な問題が問われる。16歳まで日本の普通の高校生だったから、一歩掘り下げてメタなレベルで考える訓練ができていなくて苦労した。

──とはいえ、「普通の高校生」はなかなかそこまで思い切った選択はできない。何か特別な家庭環境があった?

 10歳くらいから春休みなどにイギリスやアメリカにホームステイに何度か行き、精神的に「外国」が遠くなかった面はあったと思う。でも2人の兄は日本の大学に進学しているし、親から留学を勧められたこともなかった。環境だけでなく、人と違ったことがしたいという自分の性格も影響したのだと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中