最新記事

ユーロ危機

ああ、追い詰められた欧州首脳の泥仕合

サルコジ仏大統領がキャメロン英首相に「うんざりだ」とぶちキレるなど、欧州諸国の足並みは一向に揃わない

2011年10月25日(火)16時50分
マイケル・ゴールドファーブ

針のむしろ 新たなデフォルト候補として袋叩きに合ったベルルスコーニ伊首相は(10月23日) Thierry Roge-Reuters

 ユーロ危機を引き金とする世界不況の再来だけは回避しなければならない──。そんなプレッシャーにさらされながら、必死で打開策を練る欧州首脳たちのストレスは最高潮に達しているようだ。

 最近の彼らの言動は、まるでシーズン終了間近の9月を3勝11敗で終え、プレイオフ進出が絶望視されるメジャーリーグチームの選手のよう。すべての責任をチームメイトに押し付けて、互いに罵り合っている。

 ブリュッセルでユーロ圏首脳会議が開かれた10月23日、ニコラ・サルコジ仏大統領はユーロ加盟国でないのにユーロ問題に「介入」し続けるイギリスのデービッド・キャメロン首相に対し、面と向かって「うんざりだ」と言い放った。

 さらにサルコジはアンゲラ・メルケル独首相と徒党を組んで、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相にも厳しい警告を発した。口先だけの財政改革構想は聞き飽きたから、債務が膨れ上がってユーロ圏第3位のイタリア経済(意外にも輸出は好調だ)が潰れる前に今すぐ行動を起こせ、と求めたのだ。

 ベルルスコーニの受難はそれだけでは終わらなかった。欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長と初代EU大統領(欧州理事会常任議長)のヘルマン・ヴァンロンプイからも激しい叱責の言葉を浴びせられた。

イギリスで盛り上がるEU脱退論

 英メディアは、サルコジがキャメロンにキレた事件に飛びついている。ガーディアン紙によれば、ユーロ圏首脳会議の最終セッションでは両首脳の議論が続いて2時間が無駄になったという。サルコジはキャメロンに対し、「あなたは口を閉じる機会を棒に振った」と発言。「我々のやり方を批判し、何をすべきか口を出すことにうんざりしている。ユーロは嫌いだと言っていたくせに、今さら我々の会合に首を突っ込むな」

 もっとも、ユーロに加盟していないとはいえ、イギリスはEU経済の重要な一部。仮にユーロが破綻してヨーロッパが長期的な大不況に陥れば、イギリス経済も大打撃を受けるのは間違いない。つまり、キャメロンにも口を挟む権利はあるわけだ。

 もしかすると、サルコジは虫の居所が悪かっただけかもしれない。何しろこの日は、ラグビー・ワールドカップ決勝でフランス代表がニュージーランドに1点差で敗れたばかりだった。
 
 キャメロンはまさに四面楚歌の気分だろう。24日には英下院で、イギリスがEU加盟を続けることの是非を問う国民投票を実施すべきかをめぐる投票が行われた。キャメロンが党首を務める与党・保守党内にもEUへの憎悪に近いユーロ懐疑論が渦巻いており、政府の方針に反して賛成に回る造反議員が続出した。

 もっとも、イギリスがEUから脱退するかどうかは問題ではない。ユーロがコケれば、イギリス経済もコケることには変わりないのだから。

 最後に、ロンドン市長のマイケル・ベアに一言。世界各地に飛び火しているウォール街占拠デモの拠点がロンドンの金融街シティーにも設営された。しばらく天気もいいようだから、長期化を覚悟したほうがいい。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越

ビジネス

企業向けサービス価格3月は2.3%上昇、年度は消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中