最新記事

デザイン

スタバ新ロゴは脱コーヒー戦略の表れ?

トップレスのヒッピー女だった半魚人「セイレーン」がグローバル企業のアイコンに生まれ変わるまで

2011年1月7日(金)18時07分
ニナ・シェン・ラストギ

社史の語り部 スタバが発表した新ロゴ(右)はセイレーンの解放を意味するというが Courtesy of Starbucks

 シアトル生まれの世界的コーヒーチェーン「スターバックス」が1月5日、新たなロゴマークを発表した。創業40周年を記念して3月に導入される4代目のデザインでは、歴代のロゴで人魚のイラストを囲んでいた「STARBUCKS COFFEE」の文字が消える。

 新デザインが発表されるや否や、ネット上では賛否両論が沸き起こったが、圧倒的に多いのは否定的な意見。「安っぽいコピー商品みたいだ」「社名を消したのは身売りの準備か」といった非難の言葉が飛び交っている。

 今回のロゴ変更は、コーヒー以外のジャンルにも事業を拡大する決意を象徴するもの、というのがもっぱらの見方だ。だが、本当に理由は別にあるのかもしれない。スターバックスは、ロゴマークの中心に押し込められていた美女「セイレーン」を解放し、彼女の愛を世界に広めたいようだ。「彼女を輪から出してあげた」と、CEОのハワード・シュルツは語った。

企業を進化へ駆り立てる美女

 で、セイレーンって誰?

 人々がそんな疑問を感じてくれれば、スターバックスとしては狙い通りだ。同社のサイト内のブログで、新しいロゴのデザインに携わったスティーブ・Mという人物がこう解説している。


 彼女はスターバックスの物語を未来につなぎ、過去を思い出させる語り部だ。常にそばにいて、私たちを鼓舞し、前進させてくれる女神でもある。さらに彼女は、私たちが求めるものに向かって導いてくれる希望の星でもある。

 彼女の存在意義は一人ひとりによって異なる。私にとっては、自分の書く文章や言動について最終的な意見を言ってくれる存在だ。このブログを書いている瞬間も、私は彼女がどう感じるかを考えている(ちなみに、気に入ってくれているみたいだ)。

 そして今、スターバックスのさらなる進化によって彼女は自分を取り巻いていた輪から解放された。彼女は何にも縛られることなく、我々と物語を共有し、新たなものを求め、互いにつながるための探訪の旅に私たちを誘っている。そして、その先に向かって進むよう励ましてくれる。彼女の魅力に抵抗できる人がいるだろうか。私には無理だ。


 

 この筆者のニューエイジ的な戯言を読んでも、セイレーンが何者なのかさっぱりわからない。セイレーンはギリシャ神話に登場し、船乗りを誘惑して死に至らしめる美しい半魚人だ。

海を越えてきた商品を象徴

 ただし、スターバックスのセイレーンのルーツは、ギリシャ神話ではなく16世紀のノルウェーの木版画らしい。スティーブの説明によると、ロゴのデザインチームは「船で運ばれたコーヒーの歴史とシアトルの港町のルーツ」を象徴するデザインを求めて古文書を調べ、セイレーンに出会ったという。

 セイレーンは「人魚」と称されることが多いが、2つの尾をもつスターバックス版はむしろ、フランスに伝わる伝説の蛇女「メリュジーヌ」に近い(尾が2つあるおかげで、人魚とどうやってセックスするのかという厄介な論争にも煩わされずにすむ)。彼女はピースサインをしているわけでも、中指と人差し指を立てて相手を侮辱するイギリスのジェスチャーを真似しているわけでもない。彼女が見せびらかしているのは、2つの尾びれなのだ。

 ちなみに、初代のロゴではセイレーンは乳房まで見せていた。ロゴの変遷をみれば、トップレスのヒッピー女がグローバル企業のアイコンに進化していく過程がよくわかる。

Slate.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

麻生自民副総裁、トランプ氏とNYで会談 米大統領選

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ビジネス

中国当局、地方政府オフショア債への投資を調査=関係

ビジネス

TikTok米事業継続望む、新オーナーの下で=有力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中